<囲碁>井山裕太6冠 春の7冠までの険しい道のり
10月に行われた囲碁の第38期名人戦で勝利し、名人位を奪取した井山裕太六冠。囲碁界の7つのメインタイトルを独占する「七冠」まであと1つと迫った。しかし、来年4月に開催される十段戦に勝てばすぐに七冠かというとそう簡単ではない。
井山が目指している七冠は、険しい道のりだ。テニスやゴルフのグランドスラムと同じで、1年間で全てのタイトルを獲得または防衛しなくてはならない。現在対戦している天元戦と王座戦(五番勝負)でそれぞれ3勝してタイトルを防衛しつつ、1月の棋聖戦に勝利し、さらに、今年4月に失ったタイトル「十段」の挑戦者になるため、トーナメントを勝ち抜かなくてはいけないのだ。 1月の棋聖戦は、名人と本因坊がひとつになった大三冠のタイトルの一つ。大三冠は、過去に25世本因坊趙治勲のただ1人しか達成していない偉業で、10月の名人戦に勝った井山は史上2人目の大三冠。棋士であれば誰もが憧れる称号だ。 大三冠は賞金もすごい。棋聖戦、名人戦、本因坊戦の3つのタイトルを獲得すると、それだけで賞金が1億1400万円。一般人は、宝くじでも当たらないと手にできないような金額だ。 大三冠のタイトルは1年を通じて行われる。3つのタイトルは2日間かけて対局され、先に4勝したほうがタイトルを獲得する。野球で言えば日本シリーズのようなものだが、野球ならこの短期決戦に全精力を注ぎ、そこからシーズンオフに入ることができる。 しかし、囲碁にはスポーツのようなシーズンオフもなく、1年中をベストコンディションで戦い、勝ち続けなければいけないのだ。しかも井山は、10月に名人位を奪取した4日後には、天元戦という別のタイトル戦で、挑戦者の秋山次郎九段と対峙し、さらにその3日後には、王座戦で張栩九段の挑戦を受けている。 七冠は、実に長い道のりだ。1つのタイトルを獲るだけでも大変なのに、持っている6つのタイトルを防衛しながら、残り1つのタイトルを獲りにいく凄さ。しかも休む間もなく次から次へと対局があるのだ。体力はもちろん、精神力も強くなければ乗り越えられない道だろう。 トップ棋士は、タイトル戦に追われてどんなに忙しくても、対局に勝っているときは精神的に充実していて、それほど苦しさを感じないという。だが一度負け始めると、ハードスケジュールがそのまま体力的・精神的負担になり、いい状態をキープするのが難しくなる。 井山が来年4月までこのペースで勝ちきって、七冠を獲得するのか。それともそれを阻止する棋士が現れるのか。囲碁界の冬は熱く燃え上がりそうだ。 (ライター 王真有子)