現地在住で見えた「EV天国」サンフランシスコの道路事情
アメリカ・サンフランシスコ在住のアナリストが、シリコンバレーを含む西海岸のハイテク企業の最前線を現地レポートする。(最新の ドル円相場はこちら です) アメリカのハイテク事情を現地から伝えるこの連載、第1回は筆者が居住するサンフランシスコの状況を紹介したい。 ニューヨークからサンフランシスコに移り住んで、まず感じたのは「エコフレンドリーな都市」だということだ。サンフランシスコ市では2003年に「2020年までにゼロ・ウェイスト(ゴミゼロ)」の目標を掲げた。目標達成は延期となったが、引き続き環境保護に対するさまざま取り組みが行われている。 ■日常生活で感じるサンフランシスコのエコ意識 エコ意識の強さは、サンフランシスコ空港に降り立った瞬間から感じた。同空港では2019年から炭酸水を含む飲料水をペットボトルで販売することが禁止されたため、今や空港の売店には缶か瓶の飲料しか置かれていない。 空港を出ても、市内すべての飲食店でストローをはじめとする使い捨てプラスチック製品の使用が禁止されており、ガラスや紙製品が使われている。水筒に水を補充することができるスタンドも頻繁に目にする。 ゴミの捨て方も厳格に決められている。サンフランシスコにはゴミ焼却場がないため、分別は「Recycle(リサイクル)」「Compost(堆肥)」「Landfill(埋め立て)」の3種類となっている。 分別の種類ごとにゴミ箱が色分けされており、青がリサイクル、緑が堆肥、黒が埋め立てである。このうちリサイクルの青い箱は無料だが、緑と黒に関しては有料で、サイズに応じて料金が変化する。 各家庭ではあらかじめ用意したこれらの箱にゴミを入れ、家の前に置いておくとゴミ収集車が持っていく仕組みだ。再利用できないゴミをできるだけ減らしたいという意図があり、結果としてサンフランシスコは全米で最高となる81%のゴミがリサイクルされている。 ちなみに、日本と違って生ゴミや食べ物が入っていた紙容器などは堆肥に分別される。家電製品や家具は別途引き取りとなるが、まだ使える状態であれば外に放置しておけば誰かが持っていってくれることもよくある。 ニューヨークと比べても、水道、電気、ガスの料金が異常に高いのもカリフォルニア州の特徴だ。気候的に雨があまり降らないので、雨季に降水量が少なかった年の夏場には、地域によっては庭への水やりの回数を制限するよう当局から通達が来ることもある。とにかく、エネルギーを使わせない方向へと意識が働いているのである。 ■アメリカの中でも想像以上だったEVの普及 サンフランシスコでは、自動車に対してもエコ政策が推進されている。まず驚いたのは市内を走る電気自動車(EV)の多さである。 カリフォルニア州では「2035年までにガソリン車の新車販売を廃止する」という目標を掲げており、州内には現在、公共または共有の私有地に設置されたEV用充電器が約10万台設置されている(出典: カリフォルニア州の公式ウェブサイト )。 充電場所にも困らない。レストラン、ホテル、モールなどの駐車場には複数台のEV充電器が設置されており、EV専用の駐車スペースも設けられている。カリフォルニア州のEV登録台数は2022年時点で約9万台となっており、全米のEV登録台数の約6割を占めている。 ■プリウスなどハイブリッド車も多い サンフランシスコ市内ではEVのほか、トヨタ自動車(7203)のプリウスなど、ハイブリッドカーも依然としてよく見かける。カリフォルニア州はガソリンの税金が高く、ガソリン車よりハイブリッド車、ハイブリッド車よりEVという順位で、税制面の優遇措置が取られているためもあるだろう。 実際の交通においても、環境への貢献度や車の種類によって優先度が変わる。カリフォルニアは全米の中でも交通渋滞のひどい州だが、自動車1台に2人以上あるいは3人以上乗っていた場合に優先的に走行できるレーンが設けられており、たとえば道が混んでいる時間帯にそのレーンを使うと最大で15ドルほどの料金がかかることもある。 しかしEVであれば、乗っているのが1人でも優先レーンを無料で走ることができる。こうした制度を導入することで、より環境に優しい車に乗ろうという市民のインセンティブを高めているのである。 そのサンフランシスコでは現在、アルファベット(GOOGL)傘下の自動運転車開発企業であるウェイモ、ゼネラル・モーターズ(GM)傘下のクルーズ、アマゾン・ドットコム(AMZN)傘下のズークスといった企業が、自動運転タクシーの実証実験を進めている。次回(4月26日配信予定)は、これら自動運転車をめぐる状況について解説したい。 (構成:吉田 浩) 田中 聡(たなか・さとし)/Daiwa Capital Market Americaアナリスト。2006年大和総研に入社、食品セクター、ゲーム・エンターテインメントセクターなどを経て2016年に渡米。ニューヨーク支店にてインターネット・ソフトウェアセクターを担当。2021年よりサンフランシスコへと拠点を移す。 ※当記事は、証券投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。
田中 聡