「謎のディーゼルエンジン」なんと“旧軍の戦車用”だった! 九州大学の教材から大発見 80年も経歴不明だったワケ
昭和初期に作られた戦車用エンジン 静岡で初の展示
静岡県御殿場市の自動車会社「カマド」で2024年4月7日、NPO法人「防衛技術博物館を創る会」(以下、NPO法人)が収蔵品の見学会を開催しました。 【神戸製鋼所の「S」マーク見っけ!】これが九州大学に80年間あった戦車用エンジンです(写真) 今回の目玉は北海道から譲渡され、現在レストアに向けてクラウドファンディングを実施中の「九五式軽戦車改造ブルドーザー」(通称:ハ号ブル)です。しかし、それ以外にも本イベントが初公開となった珍しい逸品がありました。それが旧日本陸軍戦車用のエンジンである、A6120VD型直列6気筒空冷ディーゼルです。 これは、NPO法人がイベントを開催する1か月ほど前、今年3月に九州大学の内燃機関研究室から譲り受けたもので、旧日本陸軍の九五式軽戦車が搭載していたのと同じ型式のエンジンです。 A6120VD型ディーゼルが製造されたのは1935年から1942年までの7年間ほど。そのため、このエンジンも、少なくとも80年以上前に作られた戦車用エンジンということになります。しかし、長い年月が経っているにも関わらずエンジンの状態は驚くほど良く、外部から見たところ大きな破損や部品の欠損はありません。 じつはこのエンジン、九州大学において教材として使われていたものですが、実際に戦場で使われたことはなく、それどころか戦車に搭載されたこともないそうです。しかし、戦車用エンジンでありながらも、教材というイレギュラーな使用方法のお陰で、この個体は令和の現在まで無事に生き延びたといえるでしょう。
戦車用だと長らく認識されなかったワケ
戦前の戦車用エンジンがこれだけ良い状態で現存しているのは、世界的にも珍しいことだと言えます。このエンジンを搭載した九五式軽戦車は数台が今も現存していますが、オリジナルのA6120VD型エンジンを搭載して可動するのはたったの2台しかありません。 しかし、実はこのエンジン、その存在はほとんど知られることはなく、NPO法人の関係者も聞いたことのないシロモノだったそうです。一方、保有していた九州大学もこのエンジンの詳細については把握しておらず、「正体不明のエンジン」という曖昧な認識で保管されていたそうです。 なぜ、そのような状態だったのか、その理由は2つほどあります。 ひとつはエンジンが大学に納入された時期が昔で、当時を知る職員が現在はいないこと。そして、もうひとつがこのエンジンが本来の設計・生産会社である三菱重工業ではなく、神戸製鋼所で生産されたものだったからです。 大戦中、兵器は生産数を増やすために、設計した会社と生産した会社が異なるのは当たり前のことでした。このエンジンが搭載されていた九五式軽戦車についても、設計と開発は旧日本陸軍と三菱重工業で行われましたが、生産は三菱重工の一社独占というわけではなく、他の企業に設計図を渡し、積極的にライセンス生産するよう働きかけが行われていたのです。 そのようなメーカーのなかに神戸製鋼所も含まれていました。その証拠にエンジンの側面には、神戸製鋼所の当時のマークである「S」の文字と菱形の図形が描かれた銘板が付いています。 神戸製鋼所は、「KOBELCO」の商標・ブランド名で知られる日本の大手鉄鋼メーカーですが、建設機械を始めとして、さまざまな工業製品を製造しており、そのブランドに敬意と愛着を込めて「神鋼(シンコウ)」と呼ばれたりもします。 このエンジンも大学内では「教材の神鋼ディーゼル」と呼ばれていたそうです。つまり、神鋼というブランドが、このエンジンが持つ本来の戦車用エンジンという、もともとの経歴を上書きして定着してしまったということなのでしょう。