時期尚早だった世界戦。美人モデルボクサーがTKO負け号泣!
金平会長も「想定していたボクシングができなかった。経験値の差が出た。ミスマッチメイクという批判を否定することはできない。その通り」と、沈痛な表情を浮かべると、元WBA世界フライ級王者で高野とスパーも行ってきた坂田健史・代表は「あの右をもらわない距離にいなければならなかったのにそれができなかった」と悔やんだ。 高野本人も、敗因を聞かれて、「手数が足りなかったし、気持ちに余裕がなかった。相手の右フックには癖があるので振ってくるのはわかっていたが、対応できなかった。まだまだ経験が足りなかった」と答えた。 しかも、モデル、タレントとの二刀流生活で、満足のいく練習時間は取れず、今回だけは集中できる環境を3か月間作って、途中、10ラウンドスパーを消化するなど徹底的に追い込んだが、ボクシングの世界では3か月は“付け焼刃”である。2階級に及ぶ減量も加わって結果的にスタミナは持たなかった。 「本来ならばもっと長いスパンでやりたかったことは確か。ただ、短期間でやれることをすべて詰め込んだ。スタミナには自信があった。でも世界戦になるとプレッシャーが違ってくる」と坂田代表。 早すぎた、としか言いようのない世界初挑戦だったが、高野は、その才能の一端も見せてくれた。モデル体型の8頭身を活かした左ジャブと、右ストレートの威力は、女子にはない男子級のものだった。“一発当たれば”の期待感は、ずっと続いた。フィリピン人ジャッジの一人は、1、2ラウンドと続けて高野を支持していた。世界戦に備え「最後の手段」(坂田代表)として、インサイドから打つ左右のアッパーを練習してきたようだが、短期間で、その新しい技術を習得しているし、接近戦では、相手をはねのけるほどのパワーもあった。決して話題先行だけのボクサーではない本物のポテンシャルを持っていることを示した。 だが、それらの能力は継続して積み上げるトレーニングがなければ試合では開花してくれない。宝の持ち腐れである。底知れぬポテンシャルを発揮できぬまま終わっていくボクサーもまた少なくない。宝を世に出すのは、時には犠牲を払う自身の努力しかないのだ。その覚悟があるのか、タレント業を続けながら、その環境を作ることができるのか。28歳。世界のベルトを巻くためには、その分岐点に立たされたことは間違いない。 「今は休みたい。これからのことは会長と相談しながら」 高野は、進退についての明言を避けた。 金平会長は「もったいないと思う。経験値をつみさえすれば」と言い、坂田代表も「もっと強くなれる可能性が彼女にはある」と、現役続行をプッシュした。 記者会見の最後に金平会長の話を聞きながら高野はハラハラと涙を流した。 ほんの2年ほど前、彼女をインタビューしたとき、「今、簡単に世界などと口にすることはできません。アマチュアでも勝てなかった女子ボクシングの世界は、そんなに甘くないんです」という言葉を聞いて、自らを過大評価も過小評価することもなく見つめることのできているクレバーさに驚いたことがある。 その夢の舞台が決まってからは、周囲の期待に押し潰されそうになり、睡眠導入剤の力を借りても、まともに眠れない日々が続いたという。何度も禁断症状のような悪夢も見た。そして、ようやくのことで辿りつい世界戦のリングは、「楽しむ」前に終わってしまった。モデルボクサーが流した涙は、きっと悔しさなのだろう。だが、その悔し涙は、美しすぎるボクサーの再起の涙に思えた。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)