SF小説「三体」が生まれた中国の「SF」の歩み
【CNS】米動画配信大手「ネットフリックス(Netflix)」版のドラマ配信で、中国のSF作品「三体(Three-Body Problem)」が、再び世界中でフィーバーを巻き起こした。 日本では、日本の有料配信専門の衛星放送局「WOWOW」が中国IT企業「騰訊(テンセント、Tencent)版の「三体」を紹介し、日本の視聴者はSNS上で両者の違いを熱く語り合っている。 日本語翻訳版「三体」第3部が出版された2021年時点で、日本での累計売り上げは47万部に達し、驚異的と言われた。 「三体」を生んだ中国のSFはどんな歩みをたどっていたのか。また中国のSFと世界のSFとはどのような関係なのだろうか。 「全球華語科幻星雲賞(Chinese Nebula Awards)」の発起人の一人である楊楓(Yang Feng)氏が中国新聞社(CNS)の取材に応え、「中国における広い意味でのSF小説は清朝末期まで遡ることができる。また翻訳の面では、中国で最初のSF翻訳は日本の影響を受け、魯迅(Lu Xun)がフランス人の著名な小説家ジュール・ヴェルヌ(Jules Gabriel Verne)の名作「月世界旅行(From the Earth to the Moon)」を翻訳した際には日本語翻訳版が使われた」と話した。 今まで120年余りの間に、中国では著名な作家・老舎(Lao She)のSF的色彩の小説「猫城記(Maochengji)」、子ども記者が未来を探訪する「小霊通漫遊未来(Xiaolingtong manyouweilai)」、未来戦争が題材の「飛向人馬座(Feixiang Renmazuo)」、そしてこの「三体」など多くの優秀な作品が生まれている。 20世紀後半には、欧米や日本のSF作品が中国の作家たちの糧となった。そして現在では欧米でも中国的な要素を含むSF作品が数多く登場している。 米国の有名なSFファンタジー作家・アーシュラ・クローバー・ル=グウィン(Ursula Kroeber Le Guin)は、自身の小説「アースシー(Earthsea)」(日本語版は「ゲド戦記」)シリーズに、中国の「道教思想(Taoism)」の設定組み入れた。 また「銀翼殺手(ブレードランナー、Blade Runner)」(1982年)のような映画やテレビでは、ネオンサインや中国漢字で書かれた看板がサイバーパンクのビジュアル・スタイルに欠かせない要素となっている。 楊氏は「中国と西洋のSFの「違い」は本質的に、舞台となる時代と地域の文化の違いである。例えば、20世紀初頭、中国がまだ清朝末期だった頃、中国のSFは中国が変革された後の豊かさと強さを積極的に空想した。一方、産業革命を経た西洋のSFでは、劇的な技術革命がもたらす人類の階層的な問題や道徳的な問題に関わる潜在的な恐れが表現されている」と分析している。 しかし、世界のSF作品には共通点があるという。すなわち、芸術的な視点から人間の精神的な境界線や未知の領域を探求し、現代社会の急速な科学技術発展の中で人間が直面する感情や葛藤を考察し、国や文化を越えた人間の普遍的な思いを表現すること、また科学技術と人間との相互作用、未来世界の探求、人間の運命や存在意義について思索するという共通点だ。 SFの最大の魅力は、未来の様々な可能性を鮮やかに表現すること、想像力の広さと深さ、読者に新たな視点で現実を認識させ、既知の境界を越えて未知の世界を切り開かせ、未知の世界に共感させることにある。 人びとがSFを論じる時、それは本質的にSFの可能性とこうあって欲しいという望ましさを論じているのであり、実は人類の未来と運命をも論じているのだ。ただ多くの人たちは、自身がこれほど宏大な命題に関心を持っているとは意識していないだけなのだ。(c)CNS/JCM/AFPBB News ※この記事は、CNS(China News Service)のニュースをJCMが日本語訳したものです。CNSは1952年に設立された中華人民共和国の国営通信社です。