【社説】安保政策の変容 憲法を政権制御の手綱に
人権侵害の恐れがある法律なのに、住民には十分な説明がない。 法律の影響を詳しく知られたくない、というのが行政の本音だろう。福岡県築上町に住む渡辺ひろ子さん(75)はそう考える。 今年1月、土地利用規制法に基づく区域指定に、築上町にある航空自衛隊築城基地の周辺が追加された。安全保障上重要な施設の周辺の土地利用を規制する措置で、全国では約580カ所が指定されている。 この法律により、国は区域内の土地所有者の情報や利用実態を調査できる。市民のプライバシー、思想・良心の自由、財産権などが侵害されるとの批判が根強い。 町議会で議員が町に要望した住民説明会は、結局開かれることがなかった。隣接する行橋市、みやこ町も同じだ。 築上町は広報紙とホームページで指定区域を告知した。それだけでは足りない。区域内に土地を持つ渡辺さんの複数の知人は指定を知らなかったという。 安保関連施策が、国民を置き去りにしたまま進んでいく。渡辺さんの懸念は膨らむばかりだ。
■形骸化する民主主義
こうした風潮の起点となったのは2014年だ。当時の安倍晋三政権は、歴代政権が違憲としてきた集団的自衛権の行使を閣議決定で容認した。この後、日本の安保政策は変容を続ける。 現在の岸田文雄政権は防衛費の増額、専守防衛の原則に反する疑いが濃厚な反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有に踏み切った。 岸田首相は先月訪米し、日米同盟の強化を宣言した。バイデン大統領との共同声明で、両国を地球規模で協働する「グローバル・パートナー」と位置付けた。 米議会では、日本は米国と「共にある」と演説した。日本が米国の世界戦略に際限なく引きずり込まれることを危惧する。 覇権主義的な動きを強める中国や、核・ミサイル開発を進める北朝鮮の存在は無視できない。それでも、対米公約を最優先し、国会での議論を軽視する首相の姿勢は看過できない。民主主義を形骸化させてはならない。 戦後日本が築いた平和主義を基軸とする安保政策の原則が、なし崩し的に壊されている今こそ、私たちが使うべきものがある。憲法だ。憲法は為政者の権力を縛るためのものである。憲法記念日のきょう、改めて確認したい。