須賀川市は、上人［しょうにん］壇廃寺跡の史跡公園化に取り組んでいる。整備予定地に隣接するＪＲ須賀川駅西地区で進む都市再生整備事業では来春、駅を改築した東西自由連絡通路が完成する。史跡公園と合わせて歴史薫る空間づくりを進め、中心市街地のにぎわい創出につなげてほしい。 　上人壇廃寺跡は須賀川駅の北隣にある。ＪＲ東北線の複線化に伴い１９６１（昭和３６）年から３回にわたる調査の結果、８～１０世紀の寺院の変遷が判明し、１９６８年に国指定史跡となった。 　南門、金堂、講堂が南北方向に１列に並ぶ特徴的な伽藍［がらん］配置で、六角形の瓦塔［がとう］や金鼓［きんこ］など全国的に希少な遺物が確認された。奈良・平安時代の東北地方における寺院の実態を示す遺跡で、金堂が立っていた基壇［きだん］も残存する。中通り、会津地方と領域がほぼ重なる「石背［いわせ］国」の行政拠点の一部だったと考えられている。 　周辺の市街地化が進む中、古代の統治機能を想起させる空間が駅からの徒歩圏内に残っているのは貴重だ。史跡の国指定から半世紀以上が経過し、市民でも史跡の存在を知らない世代が増えており、整備を急ぐ必要があるだろう。

　市は昨年度、「時空［とき］の駅　上人壇　時をこえて人・もの・心が行き交う史跡公園」を理念にした基本計画を策定した。２０２８（令和１０）年度の供用開始を目指して、今年度は基本設計に入っている。１・５ヘクタールの敷地を「門前の広場」「伽藍の広場」「眺望と緑の広場」の三つのゾーンに分け、金堂の基壇などの原形を残しながら、イベントなども開催できるようにする。 　当時の建物は拡張現実（ＡＲ）技術などを活用して再現可能にする。史跡を次代へ継承するとともに、市民や来訪者が歴史に親しむ場として活用されるよう期待する。 　史跡公園整備と連動する駅西地区再生事業では、駅前広場やロータリーも新設される。石背郡衙［ぐんが］跡の栄町遺跡や米山寺跡・米山寺経塚群などが徒歩圏内にある。上人壇廃寺跡との動線を確保して回遊性を高め、沿道に憩いのカフェを設けるなど周辺整備も検討するよう求めたい。市街地に新たな観光エリアが生まれ、交流人口の増加につながる。古里の宝に目を向け、価値を再確認するきっかけにもなるはずだ。（安島剛彦）