ガラスを意識させない展示、写真撮影も原則自由なMOA美術館がリニューアル
16年3月から改修工事が行われていたMOA美術館(静岡県熱海市、内田篤呉館長)が今月5日、リニューアルオープンした。新装された展示スペースでは、作品と見学者を仕切るガラスが存在しないかのよう。国宝級の作品を目前に感じて鑑賞することが出来る。
熱海市の高台に建つMOA美術館。約11カ月の改修工事を終え、現在、リニューアル記念名品展が開催されている。所蔵する3500点もの作品の中から尾形光琳の紅白梅図屏風など国宝を含む70点以上の作品を公開、展示している。 美術館メインエントランスの高さ4メートルもある漆塗の自動ドア、そのドアそのものが人間国宝の室瀬和美氏による作品なのだが、その自動ドアを通り、奈良東大寺の瓦を焼いている職人が焼いた天平時代の風情漂う敷き瓦の床を歩いて展示スペースに入っていく。 照明を落とした展示スペースで、最初に展示されているのが、鎌倉時代や南北朝時代に描かれた肖像画や水墨画。一般の美術館と同様、ガラスの仕切りの中に作品は展示されているが、作品と向きあった時にガラスはほぼ見えず、手を伸ばすと作品に触れることができるのではないかと錯覚するほど。訪れた人の中には、ガラスの存在に気づかず、作品をよく見ようとして頭をガラスにぶつけてしまう人も。 ガラスの中に物や人が映り込まない高透ガラスというガラスを使用しているとのことで、展示品の横には「低反射高透ガラスを使用しています。お気をつけください」の一文を記したボードが掲げられている。展示スペース中央に黒漆喰の壁を配置することで、照明などの映り込みもなくし、作品を一層クリアに見せる工夫をしているという。
また、屋久杉の框(かまち)と古材を使った床間をイメージした空間で屏風を展示するなど、作品を見せる空間そのものにこだわった展示スペースになっている。今回のリニューアルで、ロビーエリアや展示スペースを手がけたのは、世界的に活躍する現代美術作家・杉本博司氏が建築家・榊田倫之氏と共に主宰する建築設計事務所 「新素材研究所」。 古代や中世、近世に用いられた素材や技法を、現代にどう再編して受け継いでいくのかという同研究所の課題が、「床間のような空間で日本美術を見せたい」というMOA美術館の創始者、岡田茂吉氏の思いと合致したという。同館ではリニューアル記念名品展とあわせて、杉本博司氏の作品についても10点を展示中だ。
リニューアル前は作品の写真撮影は禁止されていたとのことだが、リニューアル後は、世界の他の美術館と同様、フラッシュをたかない撮影については原則、自由となり、紅白梅図屏風など人気作品の前では多くの見学者がスマートフォンなどで作品を撮影していた。 都内から訪れたという夫婦は「熱海にはよくきます。MOA美術館がリニューアルオープンしたと聞き、見にきました。一番興味があったのはやはり紅白梅図屏風。ガラスが無反射なので写真がきれいに撮れるし、作品もしっかり見ることが出来てとても良かった」と話していた。 リニューアル記念名品展は3月14日まで。