一等地に中国車両、ドイツ・ベルリン「国際鉄道見本市」の注目点 「イノトランス」開幕、日立は高速車両を出展
■日立は高速鉄道車両を展示 日本勢では日立製作所の展示が目を引く。フランスの防衛・航空宇宙大手タレス社の交通システム事業を買収したことで、展示規模が従来よりも拡大した。 屋外では「フレッチャロッサ(赤い矢)1000」というブランド名を持つ国際高速列車ETR1000を展示した。この車両は2014年のイノトランスでも展示されていたが、このときは当時の車両メーカーであるボンバルディアとアンサルドブレダの共同開発車両として出展されていた。その後、ボンバルディアはアルストムに、アンサルドブレダは日立に、それぞれ買収された。そのため、今回は日立による出展となった。
日立の鉄道関連のグループ会社の1つである日立レールSTSでシニアディレクターを務めるマルコ・サッチ氏に「10年前の車両と何が違うのか」と尋ねてみると、「外見は同じだが、中身はまるで違う」とのこと。同じETR1000でも今回は主電動機とパワーユニットを再設計したほか、台車・列車制御監視システムも刷新した。2026年春からイタリアの鉄道会社トレ二タリアに納入することが決まっており、25日にリボンカッティングセレモニーが行われる予定だ。
会場では新技術の発表が行われると前述したとおり、今回も大きなニュースが飛び込んできた。日立は半導体大手メーカーのエヌビディアと連携し、AIなどのデジタル技術を活用した鉄道デジタルプラットフォームを開発し、イノトランス会期中に発表する。車両のメンテナンスコストを最大15%削減できるほか、オーバーホールにおいて交換する部品の量を最大30%削減するなどのメリットがあるという。 ■再び高速鉄道が主要テーマに?
開催に先立ち23日に行われた記者会見ではイノトランスを運営するメッセベルリンのダーク・ホフマンCOOをはじめ、あいさつに立った関係者たちは口をそろえてAI、デジタル技術、気候変動が鉄道業界に変革をもたらすと発言していた。しかし、会場を見渡して気付いたことがある。 10年前のイノトランスは高速鉄道車両の実物展示が目玉だった。その後、イノトランスのテーマはデジタル技術や環境性能に移り、高速鉄道の展示は減り、実験用車両など営業用途以外の車両展示にとどまっていた。しかし、今回は日立のETR1000、中国中車のシノヴァH2、さらにドイツのシーメンスも改良型の高速車両ヴェラロを展示した。このヴェラロは従来よりも過酷な温度環境下での運行を想定し、気温45度という灼熱の環境でもマイナス25度という極寒の環境でも走行可能という。
欧州鉄道産業連合(UNIFE)でジェネラルディレクターを務めるエノ・ウィーブ氏によると、「欧州委員会は高速鉄道ネットワークの整備に動き出している」という。「インフラ整備は20年、30年という長期的なプロジェクトなので、それに合わせた高速鉄道車両の開発がすぐに始まるということはないが、高速鉄道の需要は今後さらに高まっていく」と断言する。 以上は、今年のイノトランスが打ち出すテーマのほんの一端にすぎない。開幕後は多くのニュースであふれかえるに違いない。
大坂 直樹 :東洋経済 記者