【スポーツとファッション】 バドミントンシューズの栄光と黄昏 中編
近年、スポーツ界におけるファッションの進化、ファッション業界においては、スポーツへの影響など、スポーツとファッションには本質的な違いを持ちながらも、お互いに密接な関係を持っている。この連載では、カルチャーに焦点をあて、スポーツとファッションの関係についての歴史を深堀する。
溝と摩擦
ポイントは、大きく踏み出した右足ではなく、逆足(後ろの足)にある。左足の爪先で、身体が前方に流れてしまうのを防ぎ、ブレーキをかける必要があるのだ。つまり、爪先に溝を掘ることで、コート設置面とで起こる摩擦を利用し、グリップ力を高めるというアイディアこそが〈スマイル〉の要諦であった、と私は考える。 高校時代、私はミズノからスポンサードされたバドミントンシューズを着用しており、シューズの爪先には、溝ではなく半円の突起したゴムが付けられていた。そのゴムへの加工は、ネット際の攻防において――先に述べたように――身体をグリップし、支える機能として有意義なものであった。
ディーンとマックイーン
さらに自説を開陳し、思い出話も語りたいところだが、ぼちぼち連載のテーマに戻ろう。バドミントンシューズが〈ファッションになった〉のは、いつか。 まずは、ジェームス・ディーン(James Dean)と、スティーブ・マックイーン(Steven McQueen)。現在のメンズファッションの礎を形作ったふたりと言っても過言ではない稀代の映画スターが、ジャックパーセルを愛用していたのだ。 ジェームス・ディーンは傑作映画『理由なき反抗』で、リーゼントに赤いドリズラージャケット、そしてデニムパンツという出で立ちで――不良文化に根差したカウンターカルチャーに基づく――ユースカルチャーを樹立した、最初にして最大のアイコンである。もっとわかりやすく言えばデニムパンツをファッションにした、とも言える絶対的なアイコン。 対して、スティーブ・マックイーンは、『大脱走』『ブリット』など劇中で着用したアイテムが、ことごく人気を博した〈永遠の憧れ〉。A-2やMA-1などのフライトジャケットから、スウェットとチノパンのコーディネート、ロレックス(Rolex)のサブマリーナからタグホイヤー(TAG Heuer)のモナコ、さらには、フォード(Ford)のマスタングGT390など、あげればキリがないほどのプロダクトが、スティーブ・マックイーンによって、理想の男性像のファッション&ライフスタイルに欠かせないピースとして定着した。 このふたりが愛用したのだから、ジャックパーセルが〈ファッション〉になるのは必然であった。