藤井七冠のおやつで脚光「よこすかしろ」幻の味に? 掛川・横須賀伝統の地砂糖、工場休眠で製造継続見通せず
掛川市南部の横須賀地区で製造される伝統の地砂糖「よこすかしろ」が脚光を浴びている。同市で指された将棋の第74期王将戦第1局で、藤井聡太七冠(22)が老舗菓子店「菓子司しみづ」(同市横須賀)の「よこすかしろ羊羹(ようかん)」を対局初日のおやつに選んだのがきっかけ。一躍、有名になったよこすかしろの製造は、製糖施設の閉鎖などを受けて存廃の岐路に立つ。藤井七冠が味わった羊羹も、幻の甘味になる可能性が浮上している。 掛川対局以降、菓子司しみづには静岡県内外から問い合わせが相次いでいる。よこすかしろは、旧大須賀町などで栽培されたサトウキビの搾り汁を昔ながらの方法で煮詰めた白下糖で希少価値が高く、優しくまろやかな甘さが特徴。2代目店主の鈴木雅之さん(59)は「藤井七冠の影響力の大きさに驚いている。よこすかしろの風味とこくを感じてほしい」と強調する。 注目度が増す一方で、今後の安定的な製造は見通せない。製糖工場がある公設民営の大須賀物産センター「サンサンファーム」は2023年9月、運営会社が経営不振で解散した。事業を引き継いだ「おひさまテラス」も24年12月、開業から8カ月で閉業した。センター併設の製糖工場は休眠状態で、25年シーズン以降の製糖作業の可否が不透明な状況になっている。
作業はこれまで、地元のよこすかしろ保存会が一手に担ってきた。センターの工場を使って製糖し、地場産品直売所や菓子店に供給している。保存会によると、かつては40~50トンが集荷できたサトウキビは、センター閉鎖で揺れた23、24年度は農家が離れ、11トン弱に減った。椋原正雄代表(75)は「製造がいったん途切れたら再興は難しい。搾り機やボイラーが動く限り続けていく」と使命感をにじませる。 市農林課によると、2度にわたるセンターの閉鎖で事業譲渡の交渉先が限られ、今後も製糖工場を使えるかどうかなどを含め、活用法が定まっていない。担当者は「市としても、よこすかしろを何とか残せないか協議したい」と話す。 ■よこすかしろ 掛川市横須賀地区に伝わる白下糖。江戸時代中期に横須賀藩士が土佐藩からサトウキビの苗と栽培技術を持ち帰ったのが始まりとされる。第2次世界大戦後は衰退したが、平成に入って地域振興事業の一環で復活した。製糖時期は11月下旬から12月中旬。