「極刑ですら生ぬるい」法廷で直接語られた“被害者の声”【連載:京アニ事件ー傍聴席からの考察ー第5回】
京都アニメーション第1スタジオに放火し36人を殺害した罪などに問われている男に対する裁判の審理が、去年12月7日、検察が死刑を求刑し結審した。約3か月にわたり続いた裁判の中で最後に行われたのは、遺族や被害者らの意見陳述だった。法廷で直接語られた、失われた家族への想いや被告への感情から見えたものとは。京アニ裁判をめぐる連載、今回は、“被害者の声”について考える。 (報告:尾木水紀 阿部頼我 藤枝望音) 【動画】青葉被告に死刑判決 完全責任能力ありと認める 36人殺害の京都アニメーション放火殺人事件
■「類例なき凄惨な大量殺人」「死刑は正しいのか」
裁判は去年11月4日までに、最大の争点である刑事責任能力の有無についての審理を終え、11月末からは量刑の大きさについての審理が始まった。 ●検察側の主張 「類例なき凄惨な大量放火殺人。犯行の計画性や危険性、動機などが十分考慮されるべき。また亡くなった被害者の多さや遺族の受けた喪失感・絶望感・悲しみの大きさ、京アニが受けた会社としての打撃の大きさなど、被害結果の重大性も重要」 ●弁護側の主張 「検察側は死刑を求刑すると思う。裁判員の皆さんは、死刑を選択するべきか考える時が来るので覚悟してほしい。青葉被告に死刑を科すことが残虐な刑罰に当たらないか、人を殺すことは悪いことなのに、なぜ死刑を選択することが正当化されるのか考えてほしい」 量刑の大きさは、「犯情」と「一般情状」の2つの要素から決まる。犯情とは、犯行の動機や方法、被害者の人数など犯罪行為そのものの事情のことで、一般情状とは、被告の生い立ちや被害者の心境など、犯罪行為以外の要素が幅広く考慮される。 これまでの裁判で、犯情については審理が尽くされており、検察側は立証十分とした。残る一般情状について、遺族の意見陳述などから「被害者感情」についての立証が行われることとなっていた。 一方、弁護側は、死刑制度そのものについての疑問、裁判員が死刑を選択することへの覚悟を問いかける内容となった。犯情や被告の生い立ちについても審理が終えられている状況で、弁護人が立証すべきものが限られていたことを考えると、このような方法をとらざるを得なかったのかもしれない。