「ひいおばあちゃん、お疲れさま」ルーツ学ぶ授業で知った過酷な開拓の歴史 先生は問う「君たちはどう生きるか」
長野県飯田市の中学校、満蒙開拓の歴史を集中的に学習
長野県飯田市緑ケ丘中学校の3年生204人が、飯田下伊那地域から多くの住民を旧満州(中国東北部)に送り出した満蒙(まんもう)開拓の歴史について、この2学期に集中的に学習した。同校が3年次の平和学習に力を入れ始めて10年。曽祖父世代が満蒙開拓の体験者だった生徒も少なくなく、ルーツを学ぶ機会にもなっている。生徒が地域の歴史を知り、生き方や社会の在り方を考える機会にしようと学びを教員が支えている。(前野聡美) 【写真】満蒙開拓団の現地での様子
平和学習の一環「戦争を身近に捉えられる」
11月6日、同校の3年生が阿智村の満蒙開拓平和記念館を訪ねた。多くの生徒が初めての訪問。これまでの学習を踏まえ、「残留孤児に中国の人はどう対応したか」「家族全員で開拓に行った家は残された土地をどうしたか」などと職員らに活発に質問した。 本年度に平和学習を主導したのは飯田市出身の社会科教諭福島恵さん(32)。同校に赴任して6年目となり、自身も見識を深めた。「地域のことをさまざまな立場から深く考え、戦争を身近に捉えることができる」と取り組んだ。 8月末からクラスごとに総合と社会科の時間を使い、計10時間以上にわたり担任が授業を実施。ドキュメンタリー番組などを活用しつつ、満州へ送り出した側、現地住民、中国人養父母などさまざまな人の立場に立ち、生徒が考えを深められるよう工夫した。10月には、分村して移民を送り出した村長と、送り出さなかった村長のそれぞれの決断について学んだ。
親世代も知らないなら学校で
授業の基になったのは、社会科教諭の山中悠子さん(46)が昨年度に作ったカリキュラムだ。山中さんは初めて赴任した飯田市の中学校で、中国帰国者の孫世代が学ぶ教室を担当。満蒙開拓の歴史を初めて知った。 15年ほど前に孫世代が多く学んでいた長野市篠ノ井西中学校に赴任。満蒙開拓の学習に取り組んでいた元社会科教諭の飯島春光さん(70)に手ほどきを受けた。山中さんは「歴史的な背景を持つ生徒たちがルーツに直面する時は必ず来る。誇りを持たせたい―との飯島先生の強い思いに触れた」と振り返る。 山中さんは県内各地に赴任するたびに、中国にルーツがある生徒に出会った。歴史を知らずにやゆする生徒同士のやりとりを見たり、本人がルーツに誇りを持てなかったりする場面にたびたび遭遇。親世代も詳しく知らない今こそ学校現場で継続的に取り組む必要性を感じた。昨年度にカリキュラムを作る際は社会科教諭でなくても取り組めるよう、「生徒が『自分はどう生きていきたいか』を考えることを大事にした」と話す。
生徒たちはそれぞれ、満蒙開拓の歴史に向き合った。下沢晴さん(15)は曽祖母が開拓団員だったと小学校低学年の時に母に教わった。以降、歴史の詳細を知る機会はなかったが、2学期に授業が始まった際、「ひいおばあちゃんの歴史だ」と目を見開いた。「授業を通じ、相当過酷な生活があったと分かった。ひいおばあちゃんに、お疲れさまでしたと言いたい」 折田小夏さん(15)は授業で満蒙開拓の歴史を初めて知った。「満州に行った人の中には帰ってきても心に傷を負った人も多かった。生きづらかったと思う。自分ならそうした人にどんな言葉をかけてあげられるかなと考えた」と話した。