S30Z + RB26DET型|あこがれのワイスピ仕様を超越! 全方位完成度を極めたマッシブなフェアレディZ
あこがれのクルマを具現化する。それは自動車のカスタム&チューニングの原点かもしれないが、ルックスだけのレプリカではなく、エンジン、ボディーメイクにまで手を入れ、本物を超越したクルマに仕上げるオーナーは数少ない。4年の歳月を経て、「走・遊・趣」を高いレベルまで引き上げたS30フェアレディZ。そのメイキングヒストリーをお伝えしたい。 【画像36枚】タービンはオリジナルのツインターボから、TRUST製のTD07-25Gへシングル化。パワーよりもレスポンスを追求 【魔性の魅力! チューンドS30Z フェアレディZ + RB26DET】 2015年11月、アメリカ最大アフターマーケットパーツのトレードショー「SEMA SHOW 2015」で1台のS30Zが話題をさらった。 その出展車両名は「fugu Z」。 外観はパンデムのエアロをまとい、低く下げられた車高、ワイドなボディーからはみ出しそうなホイールとタイヤ、そして各部に補強が施されたうえで、ロールケージが組み込まれたインテリアなど、スキのないルックス。そして、ボンネットの下に搭載されるのはRB26型ユニット。ただし、オリジナルのL24型をオマージュする意味でNA化されるなど、派手ではないがクルマ好きのツボを押さえた通好みのカスタムが施されていた。 注目されたのはもう一つ理由がある。それはオーナーが映画「ワイルドスピード」の主要キャストの1人であるルー・ハン役の「サン・カン」であったことだ。ワイルドスピード出演者でクルマ好きといえば、故ポール・ウォーカーが真っ先に名前が上がるが、サン・カンも負けず劣らずのカーガイであることが公になったことも会場を賑わせた。 さらにfugu Zはこの年の「グランツーリスモ賞」も受賞するなど、15年のSEMAはこのクルマが席けんしたといっても過言ではなかった。 このfugu Zに遠く離れた日本でインスパイアされ、S30Z購入を決意したオーナーが居た。 「それまでは旧車に興味はあまりなく、BMWのM3に乗っていましたが、SEMAに出展していたハンのZを見て、『これに乗れるなら、旧車を買う!』と思ったほどカッコよかったですね」 早速オーナーの愛車の主治医である「カスタムスポーツ・マンディ(以下マンディ)」の小西正晃代表に相談した。大阪府八尾市にあるマンディは、L型やRB型を得意とし、モータースポーツ系のサポートも行うなど、ボディーメイクにも精通していた。 「もともと知人には旧車乗りが多く、小西代表との付き合いも12、13年。信頼していますから、クルマ選びからカスタムまでほぼお任せでした」 16年からスタートしたこのプロジェクトだが、最初のベース車両選びから難航。手を入れて仕上げることを考えると、ノーマルの良質なベース車は高すぎるし、安いと思って見に行くと、想像以上に程度が悪いなど、マーケットには使えるZが少なかった。 「とにかく、ベース車がないと始まらないので、最終的には東京のオークションで車体を見ずに購入しました。73年式で価格は290万円。L28型が載っていましたが、雨漏りするというまあまあひどい個体でした。ただ、今ではこの程度のクルマも300万円では買えないので、早めに手に入れてよかったと思います」 とはいえ、雨漏り歴のあるクルマ、車内のカーペットをまくっていくと、サビや腐食などが広範囲に及んでおり、はっきりいってフロアの程度はよくなかった。最終的にはドンガラの状態からのスタートとなったそうだ。 そして、心臓部に火が入り、地面に着地。このS30Zが公道を走り出すまで、4年の月日を必要とした。それを長いか、短いとするかの判断は個人によって異なるが、オーナーのS30Zに施された徹底的なボディーメイクを見ると、その歳月も必要だったかと素直にうなずかされる。特に下まわりの眺めは圧巻で、ボディーフロアはほぼ全域にわたって新造。本気でスポーツ走行を楽しむオーナーならば、この作り込みはうらやましい限りだろう! 「ボディーメイクはわたしの欲がありすぎ、こだわらなくてよいところまでこだわってしまったのが時間がかかってしまった要因です。作り手としては、せっかくボディーをドンガラにしたので、バラしたときにしかできない補強や処置は施しておきたい。特にシート以降のフロアを作り直したので、ああしたい、こうしたいという思いも強く、オーナーにはかなり無理をお願いしたかもしれません」と小西代表。 現在ミッションはR33のタイプM用だが、R34のゲトラグ搭載を想定してフロアトンネルを拡大し、床下は補強を入れつつ、可能な限りフラット化。ロールケージはガゼットを取り付けてボディーにフル溶接するなど、予算が許す限り、走りの基本となる骨格の強化と、今後のバージョンアップを想定したボディー作りを優先させた。 「販売車両ならここまで手をかけることなく、ある程度の修正で済ましています。ただ、オーナーとは長いお付き合いになることは分かっていますし、サーキット走行もされますから、『それなら、やれることは今やりませんか』という感じでしたね」と小西代表。 しっかりと補強が施されたボディーに合わせて搭載されるエンジンは、ハンのS30Zと同じRB26型。 ただし、トラストのTD07‐25Gタービンを組み込んだシングルタービン仕様で、腰下はノーマル、シリンダーヘッドのみオーバーホールが施され、通常はブースト1.0㎏/㎠で450㎰、1.5㎏/㎠で550㎰まで許容する。 L28型と比べて同じ出力でも当然キャパシティーに余裕がある=長く使えるという判断で、L型よりもRB型を選択。 小西代表がRB型を得意としていることも選んだ理由のひとつだ。 受け止める駆動系もR33用ミッション&プロペラシャフト、R31用デフ&LSDなどを組み込み、各部にストレスを与えないよう工夫している。 クラッチにエクセディのカーボンツインを選んだのも、扱いやすさと耐久性の高さを考慮したからだ。旧車の乗りにくさを感じさせず、扱いやすくてしかも速い。部品のチョイスからも小西代表のクルマ作りの指針が見えてくる。 「外装はパンデムのエアロをベースに、全体のアイキャッチとなるように前後バンパー、ボンネット、アンダーディフューザーなど、カーボンパーツを随所に取り入れました。カーボン好きなのもありますが、白と黒でサンドされたコンビネーションはバランスもよく、気に入っています」とオーナー。 足まわりはナギサオート製でフルピロ化し、タイヤはフロント255/35R18、リア295/30R18とかなりマッチョ。ワイド化されたフェンダーからはみ出るかのように攻めたセットは、たたずまいもタダものじゃない雰囲気で、常に熱い視線を浴びるそうだ。 「インテリアはフロアを20~30mm上げたので、ペダル、FRPのダッシュボード、ステアリングなどの高さと位置を調整するなど、すべてオーナーが最適なドライビングができるように合わせた完全ワンオフ仕様です。時間がかかるわけですよね」と小西代表は笑う。 11月8日にサーキットでのシェイクダウンが完了。足まわりとエンジンのセットアップの方向性が見え、それを煮詰めれば完成と思われたが、さらなるバージョンアップが控えている。 「実は、リアまわりはまだ未着手で、今後はドライブシャフトの加工、ブレーキの強化、安全タンクの装着に加え、アンダーディフューザー、GTウイングなどの空力パーツの追加を予定しています。リアに安定感をもたらし、車体が落ち着くはずなので、まだまだ速くなりますよ」と小西代表。 fugu Zに近づきたい思いから始まったマシンメイクだが、今では気持ちも含めて本物を超越し、さらなる進化の可能性も秘めている。ただ、オーナーとS30Zの付き合いはまだ始まったばかり、お楽しみはこれからだ。 主要諸元 Specifications 1973年式フェアレディZ(S30) + RB26DET型 >>ダッシュボードはFRP製。ドライバーに合わせて20mmほど下げている。ステアリングはナルディのφ330mm。純正サブメーターや吹き出し口などにはカーボンパーツを多用。 ■ボディー:フロア底上げ(20~30mm)、フレーム一新、メインフレーム補強、エンジンルーム&室内スポット増し、11点ロールケージボディー溶接 ■エクステリア:ボディー総剥離、R33用ホワイトオールペイント、パンデム製フルエアロ、リスタード製カーボンボンネット/リアウイング/リアガーニッシュ、ワンオフカーボンアンダースポイラー、レイブリック製ヘッドライト+IPF製LEDバルブ、パーツアシスト製ウインカー、テールランプ、クラフトスクエア製GTミラー ■エンジン:RB26DET型(ボアφ86mm×ストローク73.7mm)、550ps(過給圧1.5kg/cm3時)、圧縮比8.5、シリンダーヘッドO/H、東名パワード製ポンカム(260度カム、リフト9.15mm)/バルブスプリング ■吸排気系:トラスト製TD07S-25Gタービン/エアクリーナー/φ45mmエキゾーストマニホールド、ワンオフサクションパイプ、φ89.1mmステンレスマフラー/φ100mmチタン製テール ■冷却系:トラスト製2層ワイドラジエーター/オイルクーラー(13段)/2層インタークーラー(S15シルビア用) ■燃料系:SARD製燃料ポンプ(275ℓ/h)/コレクタータンク/850ccマルチホールインジェクター ■制御系:APEX製パワーFC(Dジェトロ) ■駆動系:日産純正30Aミッション(ECR33)、EXEDY製カーボンツインクラッチ、LSD(R31スカイライン用プレート増しイニシャルアップ:ファイナル4.3) ■サスペンション:KYB製フルタップ車高調(F/R)、スプリング不明(F/R12kg/mm)、arc製スタビライザー、ナギサオート製アーム(特注)/ロッド(特注)/フルピロ、NISMO製エンジンマウント/ミッションマウント、フロントハブ(S15) ■ブレーキ:(F)AP製Pro5000Rキャリパー+φ355mmローター、フェロード製DS2500パッド (R)FC3S用キャリパー/ローター、ENDLESS製ブレーキパッド、S15用マスターバック&シリンダー流用 ■タイヤ:ダンロップ・ディレッツアZIII(F)255/35R18 (R)295/30R18 ■ホイール:RAYSボルクレーシングTE37VマークII(F)18×10.5J -40 (R)18×12J -33、スペーサー15mm) ■インテリア:FRP製ダッシュボード、NARDI製φ330mmテアリング、レカロ製RS-Gバケットシート(アルカンターラ仕様)、TAKATA製6点式ハーネス、AIM製ディスプレイモニター、Panasonic製MXGストラーダ、CARO製特注フロアカーペット、マリン用ヒーター、ABCペダル短縮加工、サイドブレーキ加工 初出:ノスタルジックスピード vol.023 2020年2月号 (記事中の内容は掲載当時のものを主とし、一部加筆したものです)
Nosweb 編集部