営業マンからクジラ専門店店主に 縄文時代から続く日本の食文化を次の世代へ
それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
5月下旬、新しい捕鯨母船「関鯨丸」が、初めての操業に向けて、出航したというニュースがありました。そのニュースに、「ああ、クジラ、食べたいなぁ」と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。 多摩地域の西部、東京都あきる野市。東京サマーランドがある場所で知られていますが、板花貴豊さん(41)は、ここで生まれ育ち、大学を卒業後は、薬品関係の会社で営業マンとして働いてきました。 板花さんには、幼稚園からの親友がいて、二人ともお酒が大好き! ある日、その友人が「これ、食べみて」と酒の肴を持ってきたんです。 「何、この肉?」、黒い肉の塊を見て首を傾げる板花さん。 「クジラ肉だよ」 「え、これがクジラなんだ!」 板花さんが初めてクジラを食べたのは22歳、その美味しさにハマります。 「クジラは旨いだけではなく、栄養がとても豊富なんだよ」という友人の話によると、クジラは、高タンパク・高鉄分・低カロリー・天然コラーゲンもたっぷり。哺乳類なのに、青魚のDHAやEPA、さらに海の哺乳類に特有のDPAといった「必須脂肪酸」を豊富に含んでいます。数千キロを泳ぎ続けるクジラは、体内に「バレニン」という疲労回復成分も多くて、まさにスーパーフード。 なぜ、その友人がクジラについて詳しいのか? 実は、捕鯨会社「共同船舶」に就職したからなのです。新しい捕鯨母船「関鯨丸」は「共同船舶」の所有です。 飲んで食べて語り合ううちに、クジラに魅せられてしまった板花さんは、「クジラ肉専門のお肉屋さんを開きたい」と思うようになります。そのためにも捕鯨船の乗組員になって、クジラを捕ることから始めるほうがいい、その思いを妻に打ち明けると、「あなた、うちに何人の子供がいると思っているのよ!」と言われてしまいました。 当時、板花さんには幼い子供が3人いました。
大反対する妻を、「食糧危機、環境危機を救うために、そして子供たちの未来のためにも、クジラを食べる食文化を広めたいんだ」と説得して、捕鯨母船「日新丸」に乗り込んだのは、32歳の時でした。 板花さんが捕鯨船に乗って向かった先は、南極近くの南氷洋。流氷が浮かぶ海で、体長7mほどのミンククジラを捕りました。母船に引き上げられたクジラは、甲板で解体され、それぞれの部位に分けられて冷凍保存されます。