なぜ生産量25%減でも儲かるのか?日本製鉄が需要減でも利益を確保する仕組み
■ 値上げに踏み切る背景にあった「合理的な理由」 ──値上げを受け入れてもらうために、どのような考えがあったのでしょうか。 上阪 そこにあったのは「日本製鉄のハイテン鋼材がなければ自動車を造れない。造れないならば、(顧客は)値上げを受け入れざるを得ない」というシンプルな理論です。値上げとなれば、これまで購買担当者止まりになっていた価格の問題が自動車メーカー側の社長の耳に入ります。相手と同じ土俵に立つためには、値上げ受け入れを社長マターにして、社長同士、同じ土俵に立つ狙いがあったわけです。 また、価格の交渉のタイミングにもメスを入れました。日本製鉄では半期に一度、大口の顧客と交渉し、半期分の出荷価格を決めていました。この価格を「後決め」(例えば、4~9月期の出荷分の価格が8月に決まる)としていたため、価格が決まっていない状況で出荷をし続けることになり、収益管理ができていない状況だったのです。 そこで、価格を「先決め」(4~9月期の価格を2~3月時点で決める)に変更するための交渉を行いました。結果、大手の自動車メーカーから「先決め」への変更を勝ち取り、市況の見通し予測を反映して価格交渉に臨めるようになりました。価格を決めた上で出荷すれば、収益管理もしやすくなります。こうして橋本氏は、日本製鉄の歴代トップが成し得なかった改革をやり遂げたのです。 ――橋本氏の構造改革が結実し、日本製鉄は2022年3月期決算において過去最大の最終赤字からV字回復を遂げました。一連の改革を通してどのような収益構造を目指していたのでしょうか。 上阪 需要が減っても儲かる仕組みを作り、筋肉質な収益構造を目指したことが挙げられます。 例えば、高炉を15基から10基に減らし、32ラインを休止して固定費を4割下げました。そして、利幅の大きい高級鋼材の比率を高めることで、限界利益(売り上げから変動費を引いたもの)を4割増加させています。固定費が下がり、限界利益が上がったことで、利益の幅が一気に広がりました。このように収益構造を大きく変えたことが、過去最高益の原動力になっています。 注目すべきは、粗鋼生産量が10年前に比べて25%減っている点です。通常、素材産業は価格が適正であれば量が出れば出るほど利益が膨らむので、25%も量が減ると利益は落ちます。しかし、日本製鉄の利益は上がっているわけです。これは生産設備の固定費を下げて販売価格を上げたことによって、粗鋼の生産量を減らしても利益を確保できるようになった成果と言えます。