犯罪被害者への補償、北新地放火殺人事件を機に改善も…なお残る課題
犯罪被害者やその遺族が十分な補償を受けられず、生活難に直面するケースが後を絶たない。6月に犯罪被害給付制度が改正され、国からの給付金の増額など支援は拡充された。しかし、改正前の被害者には適用されないなど不十分な面もあり、生活再建への道筋をつけられない被害者や遺族も多い。専門家は「被害者に寄り添う支援体制の整備が必要だ」と訴える。 【図で解説】犯罪被害者等給付金支給までの流れ 「犯罪被害者に国は支援拡充を」「自分事と思ってご協力ください」 今月17日、発生から3年となった大阪・北新地のクリニック放火殺人事件の現場近くで、事件の遺族らでつくる「犯罪被害補償を求める会」(大阪市北区)の会員らが呼びかけた。 事件の犠牲者の中には心身の不調で休職や離職し、現場のクリニックに通っていた人も少なくない。国が支給する「犯罪被害者等給付金」は事件前の3カ月間の収入を根拠に算出されるため、十分な補償を受けられなかったケースもあり、同会の会員らはこの日、支援拡充を求める署名活動を実施した。 事件を機に給付額の引き上げを求める声が高まり、警察庁は6月、最低額を320万円から1060万円に引き上げたほか、受給者の続柄が配偶者や子供、父母には支給額が加算される仕組みも新設した。 被害者への経済支援や関係団体との連携強化などを定めた「犯罪被害者支援条例」を設ける動きも全国で加速。政府が公表する令和6年版の「犯罪被害者白書」によると、すべての都道府県で成立し、市区町村でみても約半数の847自治体で制定されている。 被害者支援の取り組みは広がっているが、課題も残る。国の給付金増額は、制度改正前に起きた事件は対象外となり、北新地事件の被害者には支給されない。犯罪被害者や遺族は民事訴訟で加害者側に賠償金を求めることも多いが、北新地事件では放火した男が死亡しており、その機会すらなかった。 訴訟で加害者側に賠償命令が出たとしても、実際に支払われることは少ない。日本弁護士連合会が平成30年に実施した調査によると、民事訴訟で確定した賠償額のうち、殺人事件の被害者側が受け取れた金額は13・3%、傷害致死事件の場合は16%にとどまる。 同会は賠償金を国が立て替える制度を設けるよう求めていたが、今回の改正では見送られ、支援の手が及ばないままの被害者や遺族もいる。
同会の奥村昌裕(まさひろ)弁護士(53)は制度改正について、「補償額の底上げなど一定程度評価できる」としながらも、過去の被害者への遡及(そきゅう)適用など不十分な点は残ると指摘。「長期的に寄り添う支援体制の構築が急務だ」として、「犯罪被害者庁」(仮称)のような専門部署の設立などを提言している。(土屋宏剛)