空冷&FRポルシェオーナーが気になる専門ファクトリー、「ポルテック」初のオープンガレージ
旧ミツワ自動車といえば、356やナローの時代から993に至る歴代の空冷ポルシェ、そしてFRモデルのインポーターとして、日本のポルシェ史、ひいては自動車史において欠かせない存在。その旧ミツワ自動車で知識と技術、研鑽を積み上げてきた熟練メカニックたちが腕を奮うガレージが、御殿場に昨年オープンした「ポルテック」だ。以来、空冷オーナーたちの間で注目されているポルテックが、去る2024年10月12日~13日に初めてのオープンガレージを開催した。 【画像】空冷ポルシェや過去のFRモデルに精通した熟練メカニックが在籍する「ポルテック」に潜入(写真6点) ーーーーー ●あらゆるサービス・マニュアルを保存 オーナーにとってメンテナンスや修理を任せられるガレージは必須だが、なかなか不具合があるまで足が向かないのも事実。しかし大切な愛車のサポートを委ねるのであれば、事前にサービス体制や環境そのものを確かめておきたいのは、ヒストリックなポルシェのような特別な車であれば尚更だろう。実際にオープン以来、ポルシェ・オーナーからの問い合わせも増えてきているとのこと。そこで晴天率の高い10月中旬の時期に、オフィシャルのウェブサイトで事前予約を募った上での内覧会という形で、現ポルシェ・オーナーから将来的なオーナーを問わず、希望者に向けてガレージ・ファクトリー内部への訪問の機会が開かれたのだ。 富士山の広大な裾野の一角にあるポルテックの敷地は、エントランスの間口こそ控え目に見えるが、建物自体が元工場を居抜きで用いているとあって、通路や動線はもちろん、ファクトリーの作業スペース自体も広々としていて余裕がある。構内に自車で進入すると早々にスタッフが現れて、慣れた手つきで駐車スペースに案内され、バックで壁に寄せるところまで丁寧に誘導してくれる点も、やはり旧ミツワ自動車のカルチャーを感じさせる。いわば、見た目の構えこそガレージ・ファクトリーであるとはいえ、顧客を迎えるところからホスピタリティが始まるというインポート・ディーラーの文法に則ったサービスなのだ。 構内のファクトリーへ至る動線は東西に走っており、冬に多少の積雪があったとしても早々に解けるであろう日当たりの良さだ。この明るい南向きの面に、ファクトリーのメイン扉がある。そこをくぐると、ここポルテックの最初期に仕上げられた2台の空冷ポルシェが展示されていた。一台は空冷フラット6として最終期となる1997年式の993カレラSのティプトロニック仕様、もう一台は356として最終モデルの 1964年式 356Cだ。前者はカレラS特有の張り出したフェンダーと2分割式のチルトアップ式リアスポイラー、また後者は二重化されて冷却効果を高めた後期型独特のベンチレーショングリルなど、モデルごとの細かな変更点までキチンと残されている。他にも、つい最近までシリンダー内部のスラッジ落としからレストアされた930ターボや、ナローの 911Sタルガなどが広い作業スペース内で来訪者らを迎えていた。 旧ミツワ自動車の正確な整備サービスを可能にしているのは、熟練メカニックとその経験を受け継ぐ若手メカニックのスキルや情熱だけではない。世代を経てもノウハウが正確に伝わるよう、ポルテックには空冷以前のポルシェのあらゆる年式、年次改良やモデルごとのサービス・マニュアルが保存されている。今回のオープンガレージでは、新車販売時に付属していたオーナー用サービス・マニュアルの一部が、卓上に並べられて展示された。他にも旧ミツワから伝わる珍しいアイテムとして、スタッフの制服に用いられたブレザーの、ポルシェのロゴ入り金ボタンまで展示されていた。構内にリフトは計5基あって、今後はクイックサービスによるオイル交換などの軽整備メニューも充実させる一方、コンプリートに近いレストア車両の販売も手がける予定という。 ●本来の性能を維持するために 充実した施設の内部を見学しながら、あらゆる空冷ポルシェや過去のFRモデルに精通した熟練メカニックが、各年式のパワートレインごとの進化や細かな仕様違いに関する質問にも、その場で直接答えてくれる。ファクトリーの一隅にはエンジンのオーバーホールを含む重作業のスペースがあるが、この日は来客用に作業テーブルの上はキレイに片づいていた。近くには空冷フラット6専用ハンガーや、ポルシェ本社そして旧ミツワから支給されていたというスタヴィレーの工具と工具ケースが、いかにも使い込まれた風情で置かれている。ホコリをとくに嫌うトランスミッション関連の作業室は別室で、オイル漏れの1滴すら見逃さないほどキレイに保たれたフロアは、ほぼレーシング・ファクトリーと遜色ないレベルだ。 この日の来訪者には当然、空冷ポルシェの同好の士が集まっていた。1989年式の930で駆けつけたオーナーがいれば、年式が1年異なるだけの同じ930オーナーもいて、自然と車の前で話が弾んでいた。販売ディーラーではなかなか見られないが、街場のスペシャルショップなどではオーナー同士の横の繋がりが目的化するような雰囲気がなくもない。ポルテックには両者の中間というか、メカニックや他のオーナーたちとの距離感のちょうどよい近さもある。 一方で、御殿場という地の利そして広大な倉庫スペースを活かして、ポルテックはストレージサービスをも手がけている。公道かサーキットを問わず主にイベントの時に乗るようなポルシェやその他のヒストリックカーまたはハイパーカーなど、趣味の車を預かるのだが、屋根の下でホコリが積もるのに任せて車をただ置くのではない。インレータブルカバー、つまり空気を常時注入したバブル状のカバーで覆って、車両を預かることもできるのだ。もちろん動態保存のための特別な整備メンテナンスを依頼することも可能で、事前に伝えれば必要なタイミングに合わせて走らせられる状態で、自宅や指定の場所まで積載車で届けてもらうこともできる。 ポルテックは、ポルシェ乗りにはお馴染みの富士スピードウェイに近く、足柄SAのスマートICもしくは御殿場 ICあるいは新御殿場ICなど、東京からも中京方面からもアクセスはきわめて至便。将来的に新東名が延伸されたら、さらに関東からのアクセス便性は増すはずだ。 「昨今のヒストリック・ポルシェの値上がりを反映してか、近頃は資産性を前提にコンディションを保ちたい、そうしたお問合せも多々あります。とはいえ結局、旧い空冷のポルシェであってもどの年式かを問わず、重要なのは気持ちよく走れるための状態を維持することに他なりません。ホント、軽い整備でなくてもオイル交換からでも、お車を診させてもらえれば、すべきこともすべきでないことも分かりますから、気軽に寄って欲しいですね」 そう堀田工場長は述べる。 空冷ポルシェは基本構造がシンプルだが、そのパフォーマンスを発揮するための構成部品が少なからず精密で、ノウハウは奥深い。よって本来あるべき姿や性能を保つために、近道はなくても正解があるとしたら、それがポルテックなのだ。実際に訪れて、自分の目で見て確かめたオーナーなら、その理由に十分に納得がいくはずだ。 株式会社PORTECH 〒412-0002 静岡県御殿場市上小林95-12 TEL 0550-80-1911(月曜~金曜 AM9:00~18:00) 文、写真:南陽一浩 Words& Photography:Kazuhiro NANYO
Octane Japan 編集部