37億年前-世界最古記録の生物化石「ストロマトライト」の発見(下)
最古の発見とされる化石の数々は、幾つもさらなるサイエンス的な問いかけを我々に投げかけてくることになる。例えば今回のストロマトライト状構造物の化石発見だが、37億年前に生物は果たしてどうして(Why)こうした建造物を手に入れる必要があったのだろうか? このバクテリアの種は、37億年前頃、具体的にどんな環境に生息していたのだろうか?(もしかしたら生物の起源を探るカギが潜んでいるかもしれない。)どうしてほかの多くのバクテリア・グループは、ストロマトライトのような構造物をもたない道を選んだのだろうか? もう一つ重要と思われる問いに、ストロマトライトのような構造物をつくる能力を、バクテリアのグループは生物の進化上「何度手に入れたのだろうか?」というものがあるだろう。果たして37億年前頃に「一度だけ」起きたのだろうか?(写真1参照)(後に現れた種は、老舗ラーメン屋の秘伝スープのごとく、その一つの奥義を脈々と今日に至るまで伝承し続けてきたという仮説だ。)一方、バクテリアの仲間は生物の進化上「何度も断続的に」こうした能力を環境の変化時に合わせて獲得してきたという、まるで正反対の仮説もたてられる。(私の知る限り後者の仮説が今のところ有力なようだが、更なる研究の成果が待たれる。)
もう一つ今回の発見の重要な点として、「太古の地球環境の復元」が挙げられる。特に大気上のいわゆる空気の成分(=さまざまなタイプのガスの比率)は、太古の昔大きく変遷してきたと地質学者によって提唱されている。地球が約46億年前に誕生してからその後10-15億年くらいの間(約25億年前の始生代中頃あたりまで)、大気には二酸化炭素と水素が多く存在していたと考えられている。(おそらく火山の噴火などによって大気に放出されたものだ。) 現在の地球上の空気の二大成分である窒素と酸素は、初期の地球にはほとんどなかったようだ。特に酸素は初期生物の進化を探る上で重要だ。地球上に酸素を初めに放出したのは今回発見されたシアノバクテリアのような生物グループだと一般に考えているからだ。そして酸素が初めてグローバル規模に現れたデータ(錆び色の酸化した鉄分をたっぷり含む堆積岩)は、18.5億年前から5.4億年くらい前の世界各地の地層から見られる(陸生植物が登場する前の記録に基づく)。さらに興味深いことに今回取り上げているストロマトライトの化石は25億年前頃を境に非常にたくさん化石が見つかり出す。短期間に大量に酸素を放出したものの正体は火を見るよりも明らかではないだろうか――シアノバクテリアだろう。 しかし今回の発見は光合成を行っていたであろうバクテリアの存在が3.7億年前にすでに生息していたという事実(及び可能性)を示している。どうして始生代の間、酸素の存在を示す跡が岩石にほとんど見られないのだろうか?素朴な疑問が浮かぶ。 サイエンスの歴史上、斬新な発見や研究は更なる疑問を投げかけ、建設的な議論を引き起こしてきたといえる。今回の発見は最古の生物化石とされ、生物の起源を探る上で鍵となる情報がありそうだ。しかも大勢の研究者の更なる研究を促してくれることも間違いあるまい。一古生物研究者からのメッセージとして聞き流しておいて頂けたら幸いだ。