「路面電車」が復活の動き その背景は?
どうして路面電車が再評価されるのか?
ところで、時代遅れだった路面電車が再評価されているのはなぜでしょうか。路面電車専門誌『路面電車EX』(イカロス出版)の佐藤信博編集長は、「少子高齢化社会を迎え、自動車を運転できる人が少なくなったことが大きな理由。このままでは、買い物や病院への通院など日常生活に支障が出てきてしまう。だから、市民の足として路面電車が注目されているのでしょう」と指摘します。 地方都市では郊外に大型商業施設が次々にオープンし、それが中心市街地の空洞化を加速させています。自動車移動を前提とした都市構造は、自動車を運転できない高齢者や高校生には不便です。つまり、路面電車は単なる交通手段ではなく、人口減少に悩む地方都市にとって、生活を守る装置なのです。 路面電車を撤廃した都市では、地下鉄が市民の足になっています。しかし、地下鉄に乗車するには長い階段を上り下りさせられます。高齢者やベビーカーを押している若いママには、これが一苦労です。
一昔前の“チンチン電車”ではない
路面電車にはそうした困難がなく、楽に乗車できます。また、1キロあたりの建設費も地下鉄が200億円程度とされているのに対して、路面電車なら約10億円で済みます。さらに、路面電車はバスのように渋滞に巻き込まれることもありません。だから目的地への到着時間も正確です。排気ガスを出さないので環境に優しいというメリットもあります。 「技術の進化で、路面電車の車両も大きく変化しています。最初に路面電車の復権を提唱したのは岡山ですが、その後につづいた広島や熊本が路面電車のイメージを大きく変えました。低床化された車両とホームとの間には段差がなく、車内もフラットです。機能面だけではなく見た目も洗練されたデザインになり、一昔前の“チンチン電車”ではありません」(佐藤編集長) 最近の路面電車はもはや昭和なイメージは感じられません。窓やドアが大きくなったことで車内は明るく乗り降りしやすくなるなど、近未来的な雰囲気さえ漂っています。 今、路面電車の“革命”が静かに始まっているのです。 (小川裕夫=ライター)