１９９３年１０月２３日付の中日スポーツ１面

◇長期連載「実録　竜戦士たちの10・８」（５）【第1章 FA元年、激動のオフ】 　１９９３年１０月２２日。前日、ナゴヤ球場で中日とのシーズン最終戦を終えた巨人の長嶋茂雄監督は東京・大手町の読売新聞東京本社を訪れ、渡辺恒雄社長にシーズン終了報告を行った。 　１３年ぶりに長嶋が監督として復帰したものの、Ｖ奪回どころか巨人では１４年ぶりの借金（６４勝６６敗１分）を抱えてのシーズン終了。Ａクラスは死守したとはいえ、３年連続のＶ逸は２リーグ分立以降、巨人では３度目となるワースト記録だ。 　午後２時３０分から始まった渡辺社長とのトップ会談が終了したのは午後４時。その後、系列のテレビ局などへ慌ただしくあいさつ回りに動いた長嶋がようやく報道陣に口を開いたのは、すでに日も暮れた午後７時過ぎだった。 　渡辺社長へのあいさつで「期待に応えられず、申し訳ありません」と頭を下げた長嶋だったが、型通りのあいさつはここまで。１時間半に及ぶトップ会談の大半が、補強に関する話であったことは間違いない。 　「（渡辺社長からは）焦ることはない。焦らずじっくりやれと言われました。相手のあることですし、成就するにはじっくりやっていかねばなりませんね」 　長嶋の言う「相手」が中日の主砲・落合博満であることは明白だった。この年の巨人は長年４番を務めてきた原辰徳に衰えが目立ち、打率２割２分９厘、１１本塁打。篠塚和典も５年ぶりに打率３割（３割３分７厘）をマークしたものの、持病の腰痛もあり、出場試合数は６６試合にとどまった。 　さらにモスビー、バーフィールドら外国人も不調に終わり、チーム打率（２割３分８厘）ばかりかチーム得点（４４６）でも優勝したヤクルトに１８６点差をつけられ、球団史上初の最下位に終わっている。投手陣はリリーフ陣の踏ん張りでヤクルト、中日に比べても遜色のない成績を残しただけに、翌年に迫った球団創設６０周年に向け、長嶋が攻撃陣の起爆剤として白羽の矢を立てたのが落合だったのだろう。 　一方の渦中の男となった落合は家族で名古屋市内のホテルに出向き、１２月に和歌山県太地町にオープンする予定の「落合記念館」に展示する写真撮影を行っていた。 　約２０人の報道陣を前に「日本シリーズが終わるまで何も言わないよ。そうじゃないと失礼だろ」と言いながらも、最後に「オレが監督なら（落合を）取りにいく」―。意味深なひと言を残し、２３日から始まる日本シリーズのゲスト解説のため上京した。　＝敬称略