朝鮮総連、本部立ち退き後のスキーム準備か 早稲田大学教授・重村智計
在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)中央本部の土地・建物(東京都千代田区)の所有権が、高松市の不動産投資会社に移転される見通しになった。朝鮮半島問題が専門の早稲田大学国際教養学部・重村智計教授は、最高裁の決定を評価しつつも、総連側が立ち退き後にスキームを用意している可能性を指摘。破綻した総連系信用組合に投入された公的資金の回収も進んでないと述べる。(河野嘉誠) * * *
最高裁の決定は法律的には当然の措置で、司法の独立を示したという意味で評価できる。日朝交渉に大きな影響はない。北朝鮮側には総連の建物を大使館として使いたいという意図もあったが、建物はまた購入すれば良いと考えているだろう。 総連の指導部は本国に対し、売却はあり得ないと伝え続けてきた。許宗萬(ホジョンマン)議長をはじめ、総連指導部の責任は逃れられない。4月までには朝鮮総連の新しいトップもきまるはずだ。 ただ、立ち退きがスムーズに進むかは疑わしい。北朝鮮側が拉致被害者12人の情報を出す代わりに、日朝政府間で総連の土地・建物に関する非公式の合意をしたという情報もある。マルナカホールディングスがほとぼりがさめた頃に朝鮮総連系企業に転売し、朝鮮総連へ賃貸するというスキームだ。 総連ビル問題の発端は、破綻した朝銀の1兆5千億円を越える不良債権だ。それを補うために約1兆4千億円の公的資金が投入された。公的資金の額としては最大規模で、当初から政治的な疑惑を呼んでいた。 朝銀の不良債権は整理回収機構(RCC)が引き継いだが、そのうち約627億円が総連が絡んだ不正融資だと判明した。総連側が在日の商工人などの名義を無断で使用し、融資を受けていた。融資されたカネは北へ送金された可能性もある。名義を不正に使用された在日商工人らは警察へ告発したものの、刑事訴追できなかった。 RCCはまず、総連との直接交渉で返還を求めた。一時は40億円で合意という方向に動いたが、結局はまとまらずに強制競売となった。RCCがこれまでに回収した金額は公表されてないが、多くは未回収と見られる。 総連は不正融資に関して刑事責任を問われていない。朝銀へ投入された公的資金への感謝もなく、「日本国民の税金がドブに捨てられた」という批判がでても仕方のない状況だ。 * * * 最高裁第3小法廷(木内道祥裁判長)は4日付けで朝鮮総連側の不服申し立てを棄却した。マルナカが地裁の指定期間内に代金を納入すれば、東京都千代田区の総連本部の土地・建物の所有権が移転される。総連が自主的に退去をしない場合、マルナカは最高裁に引渡命令の申し立てが可能になる。