なぜサッカーの育成年代には“消えゆく神童”が多いのか――。橋本英郎が語る「努力し続ける才能」を引き出す方法
成長には個人差があり、伸びるタイミングは必ず訪れる
“たられば”をいえば切りがありませんが、フジは性格的にも周囲から慕われるキャプテンシーを持っていた選手で、サッカーの才能はもちろん、プロになるほとんどすべての要素を持っていたと思います。 何が運命を分けて、プロサッカー選手になれるのかは誰にもわかりません。身体も心も、サッカーの技術も、早くから成長し始める早熟タイプもいますし、人より遅れて成長する大器晩成型もいます。重要なのは、成長するタイミングの“そのとき”が来たら、その機を逃さずに、的確な刺激を入れていくことだと思います。 フジの場合はケガもあって結果的にはプロサッカー選手になることはできませんでしたが、明らかに同年代とレベルが見合っていなければ飛び級は有効な手段ですし、早熟な選手をどう育てるかについては、その選手の成長が早い、早熟タイプだということを十分に理解して接する必要があると思います。 小学生年代の大会などで、やたらに背が高い選手、足の速い選手を前線に並べて得点を重ねるチームを見掛けますが、目先の勝利だけに目を向けるのではなく、選手一人ひとりの成長を見つめた場合、早熟選手の本当の適正ポジションはどこなのかということも考えなければいけないと思います。 いま高さを武器にして得点を量産している選手は、中学生になったとき、高校生になったとき、周囲の成長が追いついてきたときにどんな選手になっているのか? もしかしたらその選手の武器は高さではないのかもしれません。自分が指導者になって改めて思うのは、わかりやすく目につく武器ではなく、見えにくい才能、その後も継続的に成長させていける才能を見つけて、それを伸ばしてあげることこそが指導者の役割だということです。 私自身も、高校3年生の初めには172センチ、62キロという身長、体重だったのが、夏には体重が65キロに増量され、明らかに密度の高い身体になったという経験をしました。 小さい選手ではないけど、大きい選手でもなかった自分が、あるときから「ぶつかると痛いねん」とチームメイトに言われるような当たりの強さを手に入れることができていました。実はこれに先駆けて、高校3年になるタイミングで、お風呂上がりに腹筋3種類、腕立て3種類、背筋を30回3セット毎日やり出していたんです。なぜ始めたかはよく覚えていませんが、自分の身体が変わるタイミングで必要な刺激を入れていたからこそ身体の強さという新たな武器を手に入れることができました。 高校3年生、ガンバユースでのキャリアが終盤になっても、相変わらず私は「プロになるのはイナみたいな選手だろうな」と思っていて、自分がトップチームに昇格できるとは思っていませんでした。それでも、「Jリーガーになるために」という努力ではありませんでしたが、とにかく今日より明日、サッカーがうまくなっているための努力は着実に続けることができていました。 (本記事はエクスナレッジ刊の書籍『1%の才能』より一部転載) <了>