今シーズンは大きく変わった…ソフトバンクホークスの「ベテラン裏方」が気づいた「小久保監督のチーム改革術」
小久保裕紀監督のもと、4年ぶりにパ・リーグ優勝を果たした福岡ソフトバンクホークス。打撃投手としてチームを支えるのは、92年ドラフト3位で福岡ダイエーホークスに入団した濱涯泰司さん。99年の引退以降、25年にわたってホークスのバッティングピッチャーを務め、数々の名打者の活躍をアシストしてきました。濱涯さんが分析する、小久保監督のコミュニケーション術を著書『職業・打撃投手』(ワニブックス刊)よりご紹介します。 【写真】楽天・今江監督「降板」の背景にある「見過ごせなかった一件」
「帽子着用を徹底」したワケ
今季のホークスについて気づいたことを書いてみたいと思います。 今年、小久保監督に代わって、現場で感じる大きな変化は、コミュニケーションを取ることにものすごく力を入れていることです。 私たち打撃投手という部署は、本当に何十年も変わらないで同じような仕事を同じようにやっているのですが、それでもキャンプが始まる前に、小久保監督から「今年のキャンプでは、全員、常に帽子着用で徹底することにしますので、バッピのみなさんもお願いします」と言われました。 2024年のチームスローガンは「VIVA(ビバ)」。 それに込めた思いを小久保監督は、「強いチームを取り戻す。その中で個人が美意識を持ちながら。最終的には優勝してファンの皆様と喜びを分かち合いたい」と言いました。 しっかりと言葉で思いを伝え、その表現として、練習中はだらしなく見えないようにいつでも帽子を被ることにしたと、わざわざ打撃投手にも伝えてくれました。 打撃投手は、バッティング練習中に球拾いを手伝いますが、その時に帽子を被らない人もいたので、私は部署のリーダーとして、みんなにも徹底するように言いました。 これは打撃投手の部署にあったひとつの事例です。小久保監督は自ら積極的にコミュニケーションを取っています。
「軍隊式組織運営」の終焉
私もプロ野球界に長くいて、今ふたつのやり方がせめぎ合っているような気がしています。 ひとつは、昭和の時代から続く「軍隊式」を意識した組織運営。私たちはそういう環境で長く野球をしてきました。 監督が各担当コーチに指示を出し、担当コーチが担当部署の選手たちにその指示を伝える。監督が直接選手たちに接触することはない──そういうやり方です。 令和の現在、それとはまったく違うやり方がプロ野球の世界にも表れています。もちろん組織運営として担当コーチというのは存在していますが、監督も直接選手たちにコミュニケーションを取っていくやり方です。 ジャイアンツがドジャース戦法を学んでV9を達成した頃、メジャーリーグでも軍隊式に近い管理野球が当たり前でした。 それから何十年も経ち、アメリカの野球も大きく変化し、もうひとつのやり方、監督も選手たちと積極的にコミュニケーションを取るやり方が現れました。 メジャーリーグでも、中南米の選手やアジアの選手も増えて、軍隊式というよりも個人の能力を最大限活用する野球へと変わりました。それにつれてコミュニケーションの取り方もまったく違うものになっていきました。 日本の少年野球や高校野球の世界も大きく変わっています。野球しかなかった時代から、いろんなスポーツを選べる時代へ。スポーツよりもゲームが選ばれる時代へと変化しました。「軍隊式」は急激に減少しています。 これからはプロ野球の世界にもどんどん「軍隊式」を知らない選手たちが入ってきます。コミュニケーションの取り方も変わっていくでしょう。 小久保監督は選手ひとりひとりに声をかけています。選手たちは非常にやりやすそうにしています。