坂本花織はロシア勢が復帰しても「勝ち続けたい」世界選手権3連覇の軌跡を振り返る
【納得の演技で3連覇の快挙】 だが、落胆はなかった。これまでの実績をみれば、十分に逆転可能な数字だったからだ。坂本は「いかに開き直るかがカギ」と気持ちを奮い立たせた。 そしてフリーの最終組は、韓国勢ふたりに次ぐ3番滑走。試合前に坂本は「コンディションもすごくいい」と話し、その表情は集中しきっていた。 「個人的に早く終わるほうが好きなので滑走順はよかった。6分間練習からそこまで時間が空かず、イメージをそのままに演技できたなっていう感じがしています。いつもは最終滑走が多く、前の5人が演技をしている間は試合前の独特な緊張感があるけど、久しぶりにグリーンルームに座っていてまた違う感じでした。 あとに滑る選手がいい演技したら自分はどの位置にいってしまうんだろうという不安というか、いろんな思いで緊張が解けない感じがあって。最終も先にやるのもわりと緊張は変わらないんだなと感じました」 試合後の会見でそう話した坂本。滑り出しに片足のエッジがもう一方のエッジに触れて少しバランスを崩しかけたが、影響されることはなく、最初のダブルアクセルはいつものように高い加点をもらうジャンプにした。 そのあとの3回転ルッツは、エッジエラーで基礎点が下がり0.20点の減点になったが、SPとは違って踏み切りからの流れも着氷後の流れもよかった。 その後の3回転サルコウからは集中を切らさず、GOE(出来ばえ点)加点を着実に積み上げる滑りを続けた。結果は、149.67点。合計を222.96点にする納得の演技だった。そして、逆転で3連覇を決めた。 「ショートの前には少し不安を感じていて、それがパフォーマンスに表れてしまった。ショート4位で本当に焦りや緊張、いろいろな感情がありましたが、それでも(フリーは)いい緊張感のなかで一つひとつ集中してできました。結果につながってすごくうれしいです」
【常に勝ち続ける難しさ】 坂本は、これまでの世界選手権について問われ、初めて優勝した2022年大会をこう振り返った。 「初めての優勝は(北京)五輪シーズンで、その時の世界選手権の1カ月前に五輪があって燃え尽きていたので気持ち的にしんどい部分がたくさんありました。その間にロシア勢が出られなくなったりいろいろ状況が変わってしまい、自分が勝たないといけないという気持ちになってさらにナーバスになってしまった。でも、その世界選手権は最後の最後までやりきった気持ちがすごくあったので、たぶん一番うれしかったと思います」 2022年は樋口新葉がケガのため11位にとどまり、最終滑走の坂本は2位以上でなければ翌年の世界選手権で日本の3枠獲得が果たせない重圧も大きかった。そんな状況で出した236.09点は、2018-2019シーズンからの新ルールでは歴代6位の得点。4回転ジャンプやトリプルアクセルがない構成で、「大技がなくてもここまでいける」と確認できた大会だった。 そして2023年大会は、フリー後半の3回転+3回転の連続ジャンプでミスが出て、イ・ヘインに追い上げられる形になったが、224.61点で優勝。 坂本は「五輪シーズンが終わったあとでそれこそまた燃え尽きて、GPファイナルまでは本調子じゃなかった。でも世界選手権連覇をしたいっていう気持ちがあり、葛藤を乗り越えての優勝だったけど、去年は本当に苦しい......。自分が一番やりたくなかったミスをしてしまって、悔しさの残る優勝でした」と振り返る。 そして、納得できるオフシーズンを過ごして臨んだ今季は好調な滑り出しだった。 「今シーズンはずっと調子がよかったので、ショート4位になった時に好調を維持し続ける難しさを感じました。必ずしもショート、フリーとも1位で総合1位になるわけではない経験ができて、常に勝ち続ける難しさを感じた優勝だったと思いました」