「海岸のゴミ」が「カネ」に変わる⁉...新しい「人間関係」を提供する鎌倉発祥の「地域通貨」の衝撃の実態
「終わりのない成長を目指し続ける資本主義体制はもう限界ではないか」 そんな思いを世界中の人々が抱えるなか、現実問題として地球温暖化が「資本主義など唯一永続可能な経済体制足りえない」ことを残酷なまでに示している。しかしその一方で、現状を追認するでも諦観を示すでもなく、夢物語でない現実に即したビジョンを示せる論者はいまだに現れない。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ」…性的虐待を受けた女性の「すべてが壊れた日」 本連載では「新自由主義の権化」に経済学を学び、20年以上経済のリアルを追いかけてきた記者が、海外の著名なパイオニアたちと共に資本主義の「教義」を問い直した『世界の賢人と語る「資本主義の先」』(井手壮平著)より抜粋して、「現実的な方策」をお届けする。 『世界の賢人と語る「資本主義の先」』連載第26回 『財務省も目を背ける「財政赤字」問題...国民を苦しめる「インフレ」を打開するためのヤバすぎる対応策とは? 』より続く
探る「第3の道」
格差を広げ、環境破壊をやめられない資本主義を修正するさまざまな試みは、抜本的な変化をもたらすには至っていない。まったく別の経済システムなど考えること自体が非現実的だと多くの人が考える最大の理由が、資本主義に代わる経済社会システムとして考察された社会主義の失敗だろう。 全体主義がもたらした人権抑圧や計画経済の非効率さは、多くの人々にとって唯一の受け入れ可能な経済体制として資本主義を不動のものにした。 だが、資本主義でも社会主義でもない「第3の道」は、テクノロジーによって可能になるかもしれない。
地域通貨
神奈川県鎌倉市に本社を置く唯一の上場企業で、ゲーム開発などを手がけるカヤックの社長、柳澤大輔(49)は地域通貨にその可能性を見いだす。同社が2019年に「まちのコイン」事業として実証実験を始めた電子マネーは、単なる地域限定の商品券ではなく、お金では測れないものを測る「別の価値の尺度」を提供することを目標に掲げる。 たとえば、海岸のごみ拾いに参加するとコインがもらえ、それを使って市内で収穫された規格外の野菜を買える。「通貨」といっても用途は限定されるが、海をきれいにした上で食品廃棄も防げるなど、単なる財・サービスの交換以上の価値が生まれる仕掛けだ。 柳澤は「違う価値観と言ったところで、最終的に価値を測るツールが法定通貨しかないならば社会は変わらない。別の発想で、今まで測っていなかったものを測る必要がある」と狙いを語る。目指すのは、流通量が増えるほど地域の人間関係が豊かになっていくような新しい「お金」だ。 資本主義を変えるというゴールを山にたとえると「まだ0.1合目か0.2合目」。だが「まちのコイン」の利用者は鎌倉市だけで1万人を超え、全国20自治体以上で展開するなど、普及への手応えを感じている。 『「ChatGPT」の次にOpenAIが仕掛ける「世界革命」...アルトマンCEOが主導する「UBI」とは』へ続く
井手 壮平