リゾート建築はスリランカに学べ。クリエイターがこぞってスリランカの山奥に見学に行く理由…
従来の庭ともランドスケープとも異なる、地球と共鳴する心地よい居場所――。「グラウンドスケープ」という新しい概念の構築と景色づくりに取り組む造園家の齊藤太一さんが、世界中の「グラウンドスケープ」を求めてインプットの旅に出ました。 今回齊藤さんが旅したのは、スリランカ出身の建築家 ジェフリー・バワの別荘であり、バワが半世紀以上を造園や増改築に費やしたといわれる理想郷「ルヌガンガ」。 齊藤さんが旅先で出会い、感じ、発見したことは、暮らしを変える視点になるに違いありません。 【写真集】スリランカ旅で絶対行きたい!建築家ジェフリー・バワの代表作
スリランカを訪れた目的は、ジェフリー・バワの建築を体験することでした。インフィニティプールを世界で初めて創った人物。アマンなど環境の良さを生かした人気ホテルの多くはバワの思想に大きく影響を受けていることでも有名です。今でこそ“リゾート建築の巨匠”と呼ばれているけれど、弁護士から転身し38歳で建築家キャリアをスタートしたこともあり、構造的な面では素人扱いされていた時期もあるらしい。 そんな彼の建築的なアプローチ方法は、まず土地ありき。立地をじっくりと見て、そこに“しっくりくる建物”を考えるのだそう。
実際に彼の設計したホテルに泊まってみて感じたのは、窓から見える緑と光への繊細な意識でした。大自然というのは、色、形、質感などの情報量が多くて、近くにありすぎると圧迫感を感じる場合もあるんです。バワの空間では、手前の庭と奥の自然とが絶妙な距離感で融合している。彼の最大の特徴とされる“自然と建物の一体化”は、ランドスケープを理解しているからこそ実現できたものだと確信しました。 壁やドアがなかったり、窓はあってもガラスが入っていなかったり。もともとある大きな木や岩は、そのまま生かしてビューポイントにしています。敷地内や建物の中を移動していると、途中途中に無意味な段差があったりするんだけど、それは元の地形を生かした名残なんです。 そんな“無作為”な工夫が、自然(外)と建物(内)との境界線を視覚的にも体感的にも曖昧にしています。日常の“当たり前”が洗い流されて、自然の中で生きていた動物的感覚が戻ってくるような。建築の中なのに、海や山にいる感覚になれる。だから、ただそこにいるだけで心地がいい。 今という時代は、すべての行動に意味や生産性を求める傾向があります。でも、人には意味のない時間を過ごせる場所が必要で、それがグラウンドスケープの目指すところだと思いました。スケールや小手先のテクニックじゃなく“懐の深さ”。スリランカで、多くのヒントを見つけられた気がします。 ルヌガンガはスリランカの南西海岸の近くに位置し、現在はホテルとして営業中。日中は1日2回のガーデンツアーに申し込めば庭園の見学が可能です。またホテル「ヘリタンス・カンダラマ」はスリランカ中央部にあり、観光地シギリヤロックから車で40分ほどの場所にあります。 一生に一度は見たい、自然と調和した美しい建築。一度体験すれば、バワ・ワールドの虜になること間違いなしです。