〈「年越しそば離れ」も現実味?〉原材料費、光熱費の高騰に人手不足…立ち食いそば屋は「500円の壁」で店主が悲鳴
2024年もいよいよ終わりが近づいてきたが、1年を締めくくる恒例行事として、毎年大晦日に「年越しそば」を食べている人は多いのではないだろうか。日本中のそば店にとって稼ぎどきにもなる重要なイベントだが、どうやら業界は明るい話題だけではないようだ。 【画像】創業120年以上の老舗「丸花」の看板メニュー「しぐれ」(950円)
コスト高騰、人手不足など、さまざまな問題がそば業界にも
「正直、そば業界の景気はいいとは言えませんね」 苦笑いを浮かべながらこう語るのは、東京下町で120年以上の歴史を誇る老舗そば店「そば処 丸花」の5代目店主・茨和宏さんだ。 同店は、明治初頭に創業。それまで武士だった初代店主が、明治維新に伴う廃業を機に、現代で言うところの“脱サラ”感覚で開業したという。その後、大正時代の関東大震災や昭和時代の東京大空襲など、下町を襲った数々の災害や戦禍を乗り越え、今日まで営業を続けてきた。 そんな歴史ある店も、人手不足や物価高、インバウンドなど、飲食業界を取り巻く多くの課題に手を焼いているようだ。 「原材料費や光熱費の高騰、人手不足など、最近話題になっているさまざまな問題が、そば業界にも押し寄せています。小麦粉ほど急激ではありませんが、そば粉の価格もじわじわと上昇していますし、人件費を含め、ほぼすべてのコストが右肩上がりになっています。特にここ1~2年は、その傾向が顕著です。 人手不足は非常に深刻な一方で、そば店の業務には覚えることが多いため、単発で働いてもらうには向いていないんですよ。なので、最近話題の“スキマバイト”などは導入していません」(茨さん) そば業界が他の飲食店ジャンルと決定的に異なる点として挙げられるのが、古くから“出前”という商習慣があることだ。現在では「Uber Eats」などのデリバリーサービスを利用して、飲食店がユーザーのもとへ料理を届けるのは一般的な光景となっている。 しかし、そば店は「デリバリー」という言葉が今のように広まる以前から、各家庭にそばを届ける文化を築き上げてきた。 そば店の出前には、デリバリーサービスとは異なる特徴がある。たとえば送料や割増料金が発生しないのはもちろんのこと、「あとで各家庭へ食器を回収に行く」という、手間のかかる工程まで含まれているのだ。 人手不足や原材料費の高騰に悩むそば店にとって、こうした出前の仕組みは一見、大きな負担のように思える。しかし、茨さんは意外な事実を明かす。 「今のデリバリーサービスって、どこも使い捨て容器を使っていますよね。でも、あの容器って1つにつき何十円とかコストがかかるので、意外と負担が大きいんです。 その点、食器を使えば、ランニングコストは抑えられます。食器の回収も自分たちで行なえば人件費も増えませんし、意外と利点が多いんですよ。 そもそも、出前っていうのは『送料なしで家まで届けるので、これからもよろしくお願いします』という、営業活動や名刺代わりの役割もあるんです。昔ながらの地域性を生かしたやり方だと言えますね。 ただ、最近はオートロックのマンションが多くて、出前や回収に行っても中に入れないこともあって……。これはけっこう困っちゃいますよね」 (茨さん)