新型ロケット「イプシロン」 ― 低コストのポイントは固体燃料
8月27日に打ち上げ予定の試作機イプシロンロケット(全長24.4メートル)は、「宇宙への敷居を低くする」ことを目的に開発されました。現在、打ち上げ一回あたり100億円にかかっているコストを38億円まで下げることができます。そのカギはイプシロンの燃料にあります。 ロケットを打ち上げるには燃料が必要ですが、大きく分けると固形燃料と液体燃料の2種類あります。現在、日本の主力ロケットはH2A(全長53メートル)などで、これらは液体燃料を使っています。 液体燃料ロケットの場合、打ち上げ直前に燃料を詰めるので、準備に時間と手間がかかります。構造も複雑で設計や取り扱いは難しいとされますが、燃料と酸素をバルブで適切に調整して飛ぶので、ロケットの制御がしやすく、目的地に精度よく投入することができます。また打ち上げ能力も高く、固体燃料よりも重い荷物(ペイロード)を運ぶことができます。 これに対して、イプシロンが採用する固体燃料ロケットは、はじめからロケットに燃料が入っているので、打ち上げ前に入れる必要がありません。構造もシンプルで「花火」のようなものだといいます。部品が少なく、小型化も可能で製造コストを安くできます。ただその分、ロケットの細かい制御がしにくく、液体ロケットほど重い荷物は運べません。 ロケットのコントロールのしやすさではH2Aが採用する液体燃料ロケットが勝ります。打ち上げ能力においても、H2Aは約10トンまで宇宙に運べるのに対し、イプシロンは1.2トンまでしか運べません。 しかし、打ち上げコストの低減や発射準備期間の短縮では、固体燃料に軍配が上がります。H2Aの打ち上げには80億円から100億円かかりますが、イプシロンは約38億円ですみます。さらに、H2Aの場合、発射場に1段目ロケットを立ててから打ち上げるまでに約30日間かかります。一方、イプシロンは7日間で打ち上げられます。 今後、固体燃料か液体燃料のどちらかの技術を集約していくのでしょうか。JAXA(宇宙航空研究開発機構)はこう説明します。「小さな荷物は、小さいロケットで運ぶほうが効率的です」。H2Aのように大きな荷物を積める「大型トラック」だけあればいいわけではないといいます。実際、イプシロンロケットは、大きな衛星を打ち上げるためではなく、「小型で小回りよく衛星を打ち上げていく」(森田泰弘プロジェクトマネージャー、JAXAホームページから引用)のが開発の狙いです。このように打ち上げの用途に応じて液体燃料のH2Aと固体燃料のイプシロンを使い分けていくことになるようです。