石炭依存の鉄鋼業を救うか、「グリーンスチール」施設の建設進む スウェーデン
グリーン水素
石炭をグリーン水素に置き換える動きは広まりつつある。 グリーン水素は、再生可能エネルギーを燃料とする処理で水分子を分解することで生成される。グリーンスチールを製造するには、このクリーン水素を使用して鉄鉱石を精錬し、スクラップ鉄とともに電気アーク炉で融解させる。 石炭を使用すると炭素汚染が発生するが、水素は水蒸気を生成するだけだ。 H2グリーンスチールの他にも、この技術の拡大に取り組んでいる企業がある。スウェーデン北部には、同国鉄鋼大手のSSABが手がける水素還元製鉄技術「ハイブリット(HYBRIT)」を採用したグリーンスチール実証プラントもある。 SSABは21年、顧客である自動車メーカー、ボルボにハイブリットによって製鋼した鋼鉄を納入した。同社はこれを史上初のグリーンスチールと呼んでおり、26年までに商用レベルで生産する計画だ。 しかし専門家によると、この技術の規模拡大は容易ではないという。 非営利団体であるグローバル・エネルギー・モニターの研究者は、グリーンスチールの機運は着実に高まっているが、業界には乗り越えるべき障壁が数多くあると述べた。 中でも費用は大きな問題だ。水素を使った製鋼はコストがかさみ、従来の製造方法よりも最大30%高額になるとの推計もあるため、顧客は製品価格の上昇に備える必要がある。 大量のグリーン水素の生産という課題もある。これには膨大な量の再生可能エネルギーが必要だ。 スウェーデンは、風力・水力発電による豊富でクリーンなエネルギーを利用できるため、この技術の実証に適しているが、他の国では、はるかに多くの再生可能エネルギーを自国の電力網に追加する必要がある。 世界の石炭燃料の溶鉱炉を置き換えるには、莫大な投資が必要になる。経済アナリストによると、鉄鋼の脱炭素化には今世紀半ばまでに約1.4兆ドル(約223兆円)の負担が発生する可能性がある。 溶鉱炉は何十年も使用できるため、時間もかかる。ポツダム気候影響研究所の研究員は30年までに多くの溶鉱炉が寿命を迎えるが、それまで新しい溶鉱炉には置き換えられないとみる。同研究員は今こそこの業界の超長期にわたる投資サイクルを断ち切ることが重要だと語った。 現時点で世界は石炭を燃料とする溶鉱炉に大きく依存している。 世界の鉄鋼生産を独占する中国では鋼鉄の70%以上が溶鉱炉で生産されている。プリンストン大学で重工業でのグリーン水素の利用を専門としている研究員は「鉄鋼分野で中国が何をするかは、長期的にみて大きな意味を持つだろう」と述べた。 さらに多くの溶鉱炉も計画されている。グローバル・エネルギー・モニターの昨年10月の報告書によると、世界の石炭を燃料とする新たな溶鉱炉の計画生産能力は、グリーンスチールの生産能力の2.5倍に及ぶ。