労働集約型のビジネスから脱出を進める--富士通の株主総会で時田社長が説明
一方で、2024年度の主な施策として、「事業モデルと事業ポートフォリオの変革」「お客さまのモダナイゼーションの確実なサポート」「海外ビジネスの収益性向上」「サービスビジネスの収益性向上」の4点を挙げ、それぞれについて説明した。 1つ目の事業モデルと事業ポートフォリオの変革では、従来型のシステムインテグレーション(SI)ビジネスから、業種横断型で社会課題を解決する「Fujitsu Uvance」を中心としたビジネスへと変革を推進する。Fujitsu Uvanceでは、富士通のAI「Fujitsu Kozuchi」を、業種軸を中心に22のオファリングに取り入れ、機能を高めているほか、2024年度以降の海外での本格展開を見据えて、グローバル共通サービスを拡充していることを示した。2024年2月に発表したコンサルティングサービス「Uvance Wayfinders」は、ビジネスとテクノロジーの2軸で展開している点で他社と差別化ができ、商談の拡大が図れるとした。 2つ目の「お客さまのモダナイゼーションの確実なサポートでは、顧客が持つ既存資産を生かしながら、今後の成長に必要なシステムへと刷新することを支援する。時田氏は、「モダナイゼーションビジネスは、国内を中心に順調に拡大しており、2023年度は作業に必要とされるリソースの可視化、2022年に設置したモダナイゼーションナレッジセンターによる商談およびプロジェクトの効率化などを行った。2024年度以降もモダナイゼーションの需要は継続していくと予想している」と述べ、Amazon Web Services(AWS)との協業強化、2002年から北米で展開している移行サービスの日本提供の開始を訴求した。 さらに、社内の知見を集約して商談状況に応じた機動的な人材配備により、プロジェクトを確実かつ効率的に遂行しているとする。モダナイゼーションに必要なスキルを保有する人材も継続的に拡充し、ビジネスの変化に対応しながら、クラウド化やDXを見据えたモダナイゼーションをサポートしていく姿勢を示した。 3つ目の海外ビジネスの収益性向上では、時田氏は海外事業における採算性が課題となっていることを反省。「Americasリージョン」はサービスビジネスの割合が増加したことで営業利益率が改善傾向にあり、2024年度にビジネス規模の拡大とさらなる収益性向上に取り組む考えを示したほか、「Europeリージョン」ではドイツにおけるプライベートクラウド事業の独立や採算性の低い地域からの撤退などの構造改革を実行しており、2025年度までに完了させるとした。「Asia Pacificリージョン」では、競争の激しいインフラビジネスから脱却してサービスビジネスへシフトするための構造改革に着手しているという。「いずれの地域においても、Fujitsu Uvanceを中心とするサービスビジネスへのシフトを進めていく」(時田氏)とした。 4つ目のサービスビジネスの収益性向上では、サービスソリューションにおける売上総利益率改善のため、デリバリー体制の継続的な強化と、顧客への提供価値に基づく価格設定の見直しを推進する。システム開発を行う「グローバルデリバリーセンター」(GDC)では人員を拡大し、内製化率やオフショア率の改善に取り組んでいるという。また、全社共通の開発プラットフォームの活用による開発作業の標準化、自動化を進め、時田氏は工数削減の効果が出始めていることを強調した。 「人件費などの費用を基準とした見積もりから脱却し、お客さまに提供する価値に基づく価格設定を進めている。これらにより、売上総利益率が2%改善している。今後も競争力あるサービスや、付加価値の高いサービスの提供に必要な人材の育成に投資し、外部環境の変化による費用の増加を加味しながら適正な価格設定を行い、さらなる収益性向上、生産性向上に努める」(時田氏) また、株主の質問に答える形で、「もはや労働集約型のビジネスでは耐え切れない。全ての企業や組織で、少ない人数でも同等以上の仕事や責任を果たすことが求められ、そこに向き合わなくてはならない。人を増やして事に当たれば何とかなるというのは正しい姿ではない」と指摘。「社員一人ひとりが自律して責務を果たし、チームで対応していくという姿勢が富士通の中でも見えてきた。ブレイクスルーを生み出す行動の変容や、それを支えるテクノロジーによって新たなビジネスの仕方を富士通が実践していく。Fujitsu Uvanceは労働集約型のビジネスではない。業種特化ではなく、業種をまたいだ課題解決のソリューションをクラウドで提供していくことになる」と述べた。 富士通は、2025年度にサービスソリューションで売上高2兆4000億円を目指しているが、そのうちFujitsu Uvanceの売上高が7000億円となり、3分の1以下にとどまる。残りの1兆7000億円は、SIビジネスとなるため、まだ労働集約型のビジネスが大きいのが実情だ。この点について時田氏は、「グローバルデリバリーセンターによる集約型の開発を進める。開発のための基盤やツールも標準化し、個別開発から脱却する。労働集約型ビジネスから、イノベーションを創出するブレイクスルー型ビジネスへの転換を進めていく」と語った。 また、「富士通には、持続可能な社会の実現に寄与するという大きな責任がある。社会や企業を支える重要な基盤を構築し、長期で安定稼働させる責務を担っていること、その重要性は全社員が共有している。信頼と品質を一層大切にしながら、富士通自身も持続的に成長する企業となり、より安心安全で、豊かに社会づくりに貢献していく」と述べた。 AIに対する取り組みで時田氏は、「重点的に取り組むテクノロジーの1つにAIを掲げ、研究開発と実用化を進めている」とし、「企業が持つ膨大なデータを活用し、数多くあるAIの機能の中から、企業ニーズに適した形で最適な生成AIの組み合わせを迅速に作ることができる独自技術を開発した。2024年7月からFujitsu Kozuchiのラインアップとして提供する。富士通社内でもAI活用を促進するため、社内情報を活用しながら資料作成やデータ分析などに利用できる生成AIを提供し、延べ1500万回使用されている。社内実践で得た知見を活用しながら、企業や社会に役立つAI技術の研究開発を進めていく」と語った。 2024年度は、経営を支える各領域を5人の副社長がリードする体制を構築。各領域における経営判断と執行スピードを高めるとした。同社は、幹部社員を含めて外部からの積極的な人材登用を行っているが、人材流動化という点から時田氏が次のように見解を示した。 「富士通は人材流動化を推進しなくてはならないという考え方で経営をしてきた。人材流動化は、考えが固定化せず、新たな考え方に触発されて奮い立つというメリットをもたらす。富士通のような大企業は、隣の組織から異動しただけでも、新たな考え方やアイデアが生まれる。社外であればなおさらだ。だが、経験値の蓄積が難しいという課題もある。その結果、日本人同士ならば、阿吽(あうん)で分かるといったことができなくなる。阿吽の中には、経験やノウハウが入っている場合もあり、人の異動とともにそれが抜け落ちることもある。私はその点を注意深く見ている。それを埋めるために、新たなツールやシステム、AIを活用し、人が代わっても行動が変わらないように、ノウハウや経験値が落ちないように工夫をしている」 なお第1号議案では、取締役9人を選任。独立社外取締役の1人として、元日本マイクロソフト社長の平野拓也氏が新たに就任した。