宇宙飛行士・山崎直子が『僕が宇宙に行った理由』を語る 「扉を開いてくださった」
1月17日、TOHOシネマズ六本木ヒルズにて、『僕が宇宙に行った理由』公開記念舞台挨拶が開催され、平野陽三監督と宇宙飛行士の山崎直子が登壇した。 【写真】TVアニメ『宇宙よりも遠い場所』主人公たちが集まるビジュアル 『僕が宇宙に行った理由』は、株式会社ZOZOの創業者・前澤友作が宇宙旅行に行く様子を追いかけたドキュメンタリー映画だ。宇宙に行くための過酷な訓練を真面目にこなす前澤の姿や、宇宙から見える地球の姿をカメラに収め、宇宙旅行ドキュメンタリーとして非常にわかりやすい内容となっている。平野も、前澤氏に同行し、訓練を経て実際に宇宙旅行を体験し、自ら撮影した記録を一本の映画にまとめ上げた。山崎も本作に出演している。 本作について、観客の前で2人で話すのは初めてという平野と山崎。山崎は、先輩宇宙飛行士として率直な感想を求められ「全てが本物である映像の持つ力強さ、リアルさと迫力が伝わってきて感動した」という。その感想を受けて平野は「プロの宇宙飛行士の方に誉めてもらえるのは格別(の歓び)」だと嬉しさを表した。 本作には、山崎も出演しているが、ISS国際宇宙ステーション(以下、ISS)に行くプロジェクト段階から前澤の相談にのっていたそうで、同氏の推進する「dearMoon」のプロジェクトにもアドバイザリーで参加している。平野は、プロの宇宙飛行士の助言があることがなにより心強かったという。 山崎の出演パートは、平野たちが宇宙から戻ってきた半年後ごとに行われたそうだが、地球帰還直後に勃発したロシアによるウクライナ侵攻などもあり、複雑な苦悩を抱えた中でも自然体で撮影してもらえたのこと。 平野は本作の見せ場のひとつであるロケット打ち上げシーンは特に音にこだわったと語る。自身が搭乗する前に何度か打ち上げに立ち会っているそうだが、その時の感動を観客にも味わってもらえるように、こだわって音を調整したという。その他、映画として心がけた点として、「前澤さんに近しい立場なので、身内っぽくなりすぎないように、客観視する立場を心掛けた」とのこと。しかし、山崎は、そばにいる平野だからこそ自然体の前澤の姿が映画には映っているという。 映画には、宇宙に行くための過酷な訓練に臨む前澤の姿もたくさん収められている。山崎の場合はプロの宇宙飛行士としてISSに行くので1年弱ほど訓練に費やしたそうだ。ISSは15の国が共同開発しているため、それぞれの国が提供している設備を学ぶ必要があるため、前澤と平野はロシアの訓練施設だけでなく、NASAやJAXA、ESAの施設にも勉強に訪れていたことを明かした。 作中で前澤と平野がのせられている回転椅子の過酷な訓練はNASAでは実施していないらしく、「実はあれは必要ないのではないかと皆が言っていた」と平野が裏話を語った。 平野は、本作の撮影を通して多くの宇宙飛行士の方と接したが、誰もがみな人格者だったという。「宇宙飛行士の方は高潔で文武両道で、素晴らしい人たちばかり。そういう人の前で自分のちっぽけさに気づかされた」と語る。 山崎は前澤と平野の宇宙旅行が宇宙産業に与える影響について聞かれると、「これから日本ももっと宇宙行きたいと思う人が出てくると思う。その扉を開いてくださった。完全に民間のプロジェクトで宇宙に行ったのは全くの初めてなのですごく貴重なこと。しかも記録に残してくれた」とし、「宇宙開発ミッションは民間も含めたチームワークで多くの専門の方が支えている。前澤さんと平野さんもすでに(宇宙開発の)仲間」と苦労をねぎらった。 最後に、宇宙に行って気が付いたことや自身の変化について聞かれた平野は、「本質的に変わったと言うと嘘になるが、宇宙飛行士の方との触れあいやウクライナ侵攻を経て、今まで考えなかったことを考えるようになった。そういう考えをこうして映画としてアウトプットできたことで成長したと思う」とし、舞台挨拶を締めくくった。
杉本穂高