植田日銀2年目は”円安との戦い” 次の利上げ判断めぐり神経戦
日本銀行の植田総裁が就任して9日で1年となった。マイナス金利政策の解除など、大規模金融緩和策の正常化に向けて踏み出した1年目の政策運営は、概ね市場からも高評価を受ける。一方で今後の正常化に向けては、利上げ後も止まらない円安への対応が大きな課題となる。(経済部 渡邊翔)
■「チャレンジング発言」は今や彼方…17年ぶり利上げで植田総裁の評価は「市場との対話巧者」に
「ここまでの1年間、おそらく様々な幸運にも恵まれて、いくつかの政策決定・政策変更を進めてくることができた」総裁就任からちょうど1年となった9日の国会答弁で、控えめに就任1年目を振り返った植田総裁。この1年間で、今年3月の金融政策決定会合では17年ぶりの利上げを決定。マイナス金利政策の解除やイールドカーブ・コントロールの撤廃など、大規模金融緩和策の大きな修正に踏み切った。年明けから植田氏や幹部が相次いで、春の春闘の賃上げ動向が大きな判断材料になることや、政策変更の論点などを発信。市場に政策変更を十分織り込ませた上での決定で、利上げを混乱なく乗り切ったことで、市場関係者は植田総裁の市場との「丁寧な対話」を高く評価している。去年の年末に国会答弁で「年末から来年にかけて一段とチャレンジングに状況になると思っている」と発言したことが早期の政策変更へのシグナルと解釈され、ドル円相場が大きく円高に。この「チャレンジング発言」の記憶はもはや彼方、という様相だ。
■2年目は「円安との戦い」が焦点 追加利上げ時期に影響も?
日銀の今後の大きな焦点は、早くも次の利上げの時期に移っている。この利上げ時期を早めかねないのが、継続する円安だ。3月の日銀の利上げ決定後、教科書通りなら円高に進むはずのドル円相場は円安へと「逆回転」した。アメリカ経済の底堅さが続き、FRBの利下げ時期の観測が後退したことに加え、植田総裁が決定会合後の会見で、「当面、緩和的な金融環境が継続すると考えている」などと発言したことで、日米の金利差が開いた状態が当面続くと受け取られた。その後もじりじりと円安は進み、3月末にはドル円相場は1ドル=152円目前と、33年8か月ぶりの円安水準に。円安に対応するために、日銀が7月など早い時期に追加利上げに踏み切る可能性も、市場関係者から聞こえ始めている。 植田総裁の発言にも微妙な変化が見える。9日の国会答弁では「当面、緩和的な金融環境が継続すると考えている」と述べる一方、「為替レートの動きが場合によっては、経済物価情勢に無視できない影響を与えるという事もあり得る。そういう事態に至れば、金融政策の対応をもちろん考える可能性が出てくる」「我々の見通し通りに推移していくと、基調的な物価上昇率が少しずつ上がっていく中で、(金融)緩和の度合いの縮小ということも考えていかないといけない」などと発言。いずれも、更なる利上げの可能性を匂わせることで、円安が進む市場をけん制するニュアンスがにじんでいた。 日銀は「物価の番人」と呼ばれるように物価の安定が主な使命で、為替の安定は本来の目的ではない日銀内部からも「うちは為替対応のために利上げを考える、という意識はない」との声が挙がる。ただ日銀の政策に詳しいある市場関係者は「この1年、日銀は政策変更にあたり、常に為替を意識してきた。為替は今も、明らかに日銀の政策関数だ」と指摘する。