トヨタ・オーリスにHV追加 ゴルフの影とCセグメントの苦悩
“直線番長”の踏襲と高級路線の限界
実際にクルマに乗ってみると、オーリス・ハイブリッドは涙ぐましい努力の結晶だと思う。全方位に頑張った形跡が見て取れる。サスペンションの初期ストロークをキレイに動かすためのダンパーチューンもよく効いていて乗り心地は良好だし、パワステも違和感がない。今時違和感が無いというのはかなりの褒め言葉である。ブレーキもハイブリッドにしてはという条件付きながら上々だ。そしてトヨタのハイブリッドが最も苦手とし、乗った時に最も気になる速度制御もまずまずのところにある。これが旧型プリウスのパワーユニットで作られていると思うとなおさらである。速さに関しては人それぞれ及第点が違うので何とも言えないが、あまり速いことを欲しない筆者には十分以上に速かった。 しかし、では「これがスポーツハッチです」と言われてなるほどと言えるかと言うとそういうものではなかった。最後まで頑なにリヤを踏ん張らせるセッティングは少なくともドライバーを信用したものとは言えないし、タイヤがどういう状況にあるかのインフォメーションも不足している。同じ試乗会でテストしたパッソの方がインフォメーションがしっかり伝わって来た。 広い空き地で定常円旋回を試してみると、限界ではフロントタイヤがグリップ限界を迎えて急激にドリフトアウトするが、リヤは踏ん張ったままだ。セオリー通りであることは認めるが、スポーツを標榜するなら、本来このバランスは一方的でない方が望ましい。リヤが頑張るセッティングは、超高速での安全性は高いだろうが、そこに焦点を合わせる意味がわからない。この直線番長的なハンドリングはゴルフに似すぎている。 2016年の現在、時速200キロでぶっ飛ばせることに意味があるだろうか? ガラパゴスなドイツでさえ使い場所が限られているゴルフの性能を模倣する必要はないと筆者は思う。むしろ世界の主流を考えれば、時速120キロ以下での軽快感や自在感に特化した方が良いと思うのだ。それは低速で、かつ限界より遙かに低い速度で、もっと言えば法定速度の範囲内で楽しいハンドリングという意味だ。オーリスがスポーツハッチであるならば、そういう運転の楽しさを提供できるクルマであるべきだと思う。フォーカスがゴルフ打倒を果たしたのはそういう新しい価値を提示したからだ。そのためにはもしかしたらトヨタはハンドリング評価基準を変える必要があるのかもしれない。そうしないと「もっといいクルマ」を作れない可能性がある。