ジム・ジャームッシュが写真見本市「パリ・フォト」に参加、マン・レイとシュルレアリスムとの出会い語る【パリ発コラム】
毎年秋になると、恒例の写真見本市「パリ・フォト」がグランパレで開催される。世界中のさまざまな写真ギャラリーが出展するとともにイベントやトークも開催されるのだが、そのなかで今年のゲストのひとりにジム・ジャームッシュ監督がいた。ジャームッシュは2021年にコラージュ写真を作成した作品を集めた、「Some Collages」(Anthology Editions)を出版。さらに2023年には、マン・レイの4つの短編<「Le Retour à la raison」(1923)、「Emak-Bakia」(1926)、「L’Étoile de mer」(1928)、「Les Mystères du château du Dé」(1929)>を繋げ、自身のバンド、SQÜELにより音楽を付けた「Le Retour à la raison」を作り、カンヌ国際映画祭でプレミア上映をおこなった。今回のパリ・フォトでも本作が上映されるとともに、トーク・セッションが開催された。 マン・レイとシュルレアリスムとの出会いについて尋ねられた彼は、「自分がティーンエイジャーの頃、ダダイズムとシュルレアリスムに出会いとても影響を受けました。さまざまなものの見方、知覚を変えさせられました。最初に出会ったのはダダ。まるでパンクロックのような衝撃でした。一方シュルレアリスムはもっと洗練されていて、どこかポジティブなものがある。合理性と夢のような幻想的なものが並列されていて。なかでもマン・レイの作品にはつねにインスパイアされます。彼はコラージュ、彫刻、絵画、そして映画と、さまざまな媒体で表現をしました。それに彼の生き方も格好よかった。彼は名声を成すためにやっていたのではなく、アイディアに、表現に興味があったのです。彼の作品は物語的ではなく詩的。カメラを使って何かをクリエイトすることに興味があったのだと思います。まるでドラッグのように幻覚的な作用があり、白昼夢のような感覚をもたらされます」と解説。 今回マン・レイの作品に音楽を作ることになったきっかけについては、「もう15年ぐらい前になりますが、当時はまだ十代だったフランスのあるプロデューサーに、サイレント映画に音楽をつけてみたいと話していたとき、『それならマン・レイの映画を観るべきだ』と言われ、当時はまだ2、3編しか観たことがなかったので、もっと観たいと思ったのがきっかけ。それが時を経て今回に至ったというわけです」と語った。 ちなみに本作は、パリで同時に劇場公開もされた。マン・レイは「オブジェよりはアイディアを、アイディアよりは夢を写したい」と語ったが、キキ・ド・モンパルナスが謎の女として登場する「Le Retour à la raison」と「L’Étoile de mer」、さまざまな幾何学模様が現れては消える「Emak-Bakia」、南仏のモダーンな別荘を舞台に、顔の見えない人間たちがサイコロ遊びを楽しむ「Les Mystères du château du Dé」など、まさにどれもがめくるめく映像詩と呼べるもので、映像における実験性が追求されている。SQÜELの音楽がつくことによって、ときにリズムがもたらされたり、心地良いまどろみ感が漂うのがスリリングな快感をもたらす。 トークではさらに、写真好きなジャームッシュがパリ・フォトの出品作のなかからアットランダムに選んださまざまな写真家の作品も紹介された。彼の大好きなロバート・フランクやドラ・マール、ソール・ライター、ファッションを詩情に昇華したパオロ・ロベルシ、荒木経惟や森山大道、コラージュを効果的に使ったカルメン・カルボなど、さまざまなタイプのアーティストが並び、その趣味の広さを伺わせた。(佐藤久理子)