特等ベッドは魚雷の隣? 防音徹底、座席の下にはジャガイモが◆最新型潜水艦「たいげい」に乗ってきた【自衛隊探訪記】
機密の塊でベールに包まれた潜水艦。隊員は一度任務に就くと、行き先や期間を家族に告げることもできない。窓一つない狭い艦内での暮らしはどのようなものなのか、快適に過ごす工夫とは。取材で垣間見えた艦内生活をリポートする。(時事通信社会部 釜本寛之) 【写真】たいげい艦内のシャワーと洗面台 ◇床はゴム張り、トイレも消音設計 潜行してしまえば居場所を特定することが困難な潜水艦。エンジンや各機関の駆動音や、隊員の生活音、そうした海中にはない音を敵に拾われれば位置を探知される手掛かりになってしまうため、潜水艦では艦内の音を外に出さないための工夫が凝らされている。 艦内の床は靴音や物を落としたときの音がしないように、ゴムやじゅうたんなどの柔らかい素材が張られている。さらに隊員は乗艦した後は制服のブーツをスニーカーに履き替えて勤務するという。機関室の壁を走るコード類も束ねて固定し、所々ゴムをかませてある。「艦の振動で震えて音を生じさせないための工夫」だそうだ。 士官室や食堂にはテレビや音楽を聴く設備もあるが、もちろんイヤホン完備。某映画のように「艦内にクラシックを響かせることなどあり得ない」。トイレを利用したが、段階的に水を流して大きな音を立てない仕様になっていた。シャワーや洗面も静音仕様になっているそうだ。護衛艦と違い浴槽はないが、前の「そうりゅう」型よりシャワーやトイレは幅5センチ分広くなり「ずいぶん快適になった」という。 艦内に全自動乾燥機付きの洗濯機もあるが、作動音が大きいためか隊員の利用は禁じられ、使えるのは食堂の布巾や医療用ガーゼなど衛生関連のものを洗うときだけ。そのため任務が長いと下着や靴下を数十枚持ち込むといい、隊員は「常に空調下で運動もしないので汗をかかないとはいえ、長い任務になるとやりくりが大変」と話していた。 ◇座席の下は収納庫、スペース徹底活用 以前より大型化されたたいげいだが、「電子機器類が増えたので、隊員用の居住スペースはむしろ減った」とか。その中で女性隊員用の専用区画も初めて設けられた。手狭な生活空間を補うため、余分なスペースはないと言っていいほど有効活用されている。 士官室の壁面にはモニター類がない部分のほとんどに大小さまざまな物入れが設けられ、取っ手や鍵穴だらけ。発令所も操縦席など隊員が座る椅子は全て、座面が取り外し式になっており、中に書類などが詰め込まれていた。 食堂の椅子も同様に収納庫になっており、開けてみると中にはイモやタマネギなど保存の利く根菜類や調味料のストックが。食堂自体もまとまったスペースがない艦内事情を考慮し、食事以外にも非番中の休憩スペースや隊員教育、会議などさまざまな用途に徹底活用されている。ちなみに潜水艦の食事は「航行中唯一の楽しみ」という事情を考慮してか、1食当たりの予算が通常の護衛艦より高く設定されている。記者も実費を支払ってカレーをごちそうになったが、「肉がたっぷり入ったぜいたくな味」だった。