「錦織圭がこの先、どれくらいプレーできるか、わからないから」元コーチ、ダンテ氏が思い出を語る
【復帰して間もないのに『圭はやっぱりすごいな!』】 続けてボッティーニは語る。 「僕はコーチとしては、とても細かいタイプだと思います。もちろん僕は人生を謳歌しているし、コートを離れたら遊びもしますが、コートでは細部まで突き詰めるタイプです。なので僕の指導や指摘は、圭にとっては時にわずらわしかったかもしれません。 でも、少しずつお互いを理解し、常に向上してきたと思います。圭は、技術はもちろん、食事の摂り方なども改善していきました。練習も、フィジカル面も、そして人としても。 僕はどんなに小さなことも見逃したくなかったので、試合の時も気がついたことはすぐにスマートフォンに書き込んでいました。時々、僕のそんな姿を見て『スマホばかりいじっている』と思った人がいるかもしれませんが、メモを取っていたんですよ」 そう言い広げる大きな笑みにも、彼の人柄が映し出されるようだった。 昨年7月、ボッティーニは錦織の試合を、対戦相手のコーチングボックスから凝視していた。彼が当時就いていたシャン・ジュンチェンが、ケガから復帰して間もない錦織と対戦したためである。それは彼にとって、「とても不思議な感覚」だった。 「もちろん僕はシャンのコーチなので、彼に勝ってほしいと思っていました。ただ同時に、ふたりの対戦を見られることがすごくうれしかったし、この試合のボックスにいられることを、とても光栄だとも感じていたんです。 『圭はやっぱりすごいな!』とも思いながら、見ていました。圭が勝った時は、心から祝福しました。果たしてこんな機会が再び巡ってくるだろうかと思ったら、本当に幸福な気持ちになったんです。圭がこの先、どれくらいプレーできるか、わからないですから。 自分の立場からしたら残念な結果ですが、でも、圭がいいプレーをしていることは、うれしかった。彼のプレーは、僕がよく知っている圭だと感じたし、それを違う立場から見るのも不思議な感覚でした。もちろん、試合前にはそれらの情報はシャンに伝えていたんですが......圭のプレーがよかったので仕方ないですね」
テニスと出会ってから約40年経ち、ツアーコーチ業は14年目に突入したボッティーニは、「この仕事は大変なこともあるけれど、それ以上に喜びのほうが大きい」と言う。 その原点にある錦織との日々に郷愁を寄せるように、彼は温かな笑顔で言った。 「圭と過ごした9年間は、本当に幸福な時間でした」......と。
内田 暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki