「M-1グランプリ2023」の敗者復活戦から、注目の5組をチェック!【きしたかの・フースーヤ・バッテリィズ・エバース・ナイチンゲールダンス】
M-1準決勝を会場で見届けた編集者・ライターの斎藤岬が、2023年の敗者復活組から、独自の視点でピックアップした5組をわかりやすく解説する。 【写真つきの記事を読む】5組を写真でチェック!
12月24日(日)、クリスマスイブの15時から『M-1グランプリ』敗者復活戦の生放送が行われる。準決勝で敗れた組が決勝に這い上がるただ1枚の切符をかけて争うこの戦いに、今年大きな変革がもたらされた。 ひとつは会場の変更だ。2015年以降、決勝のスタジオが設けられたテレビ朝日から目と鼻の先にある六本木ヒルズアリーナでの開催が恒例になっていたが、今年は新宿住友ビル・三角広場に会場が移る。『M-1』の敗者復活戦といえば六本木ヒルズアリーナしかり2007~2010年の大井競馬場しかり、12月の寒空の下で行われるのがおなじみで、屋内での開催は2004年以来となる。 極寒の屋外から勝ち上がってスタジオへ、という移動にはドラマ性があったが、漫才をやる環境としてはどう考えてもベストとは言えない。寒さに加え、六本木ヒルズ周辺は交通量も多いため、ネタ中に車やバイクの騒音が挟まってしまったり、2020年にはニッポンの社長の出番中に5時のチャイムが鳴り響いたりといったアクシデントが起きている。視聴者からのみならず、先輩芸人からも「外でやる必要があるんですかね? 考えてあげてください」(中川家・剛/2021年12月3日放送 ニッポン放送『中川家 ザ・ラジオショー』より)と指摘されていた。出場者にとっては大きくプラスになる変更点だろう。 そして、最も大きな変化は審査方法のリニューアルだ。2015年から昨年までは、全組がぶっ通しでネタを披露した後に視聴者がスマートフォン等から投票する「国民投票」システムだったが、これをとりやめる。今年は21組の出場者を3ブロックに分け、1つのネタが終わるごとに会場の観客からランダムで選ばれた500人が「暫定勝者」と「挑戦者」のどちらが面白かったかを審査する。さらに、各ブロックの勝者3組に対して芸人審査員が投票を行うという2段階の審査が行われる予定だ。 審査員を務めるのはNON STYLE・石田明、アンタッチャブル・柴田英嗣、マヂカルラブリー・野田クリスタル、かまいたち・山内健司、錦鯉・渡辺隆の5人。これまでは視聴者投票というシステム上、当日のウケやネタの出来にかかわらず知名度の高い組が勝ち上がりやすい構造になっており、その結果にたびたび賛否が巻き起こってきた。今回の大幅リニューアルにはそうした状況を是正する狙いがあるのだろう。 視聴者としては以前より参加感は減るが、最後の一枠をかけた熾烈な争いは今年も白熱するはずだ。本稿では初出場組の中から5組をピックアップして紹介する。観戦の参考になれば幸いだ。 ■きしたかの 岸大将/高野正成 所属:マセキ芸能社 結成:2012年 高野の“怒りツッコミ”を武器に、ライブシーンではネタでも平場でもかねてより存在感を示していた。2022年、YouTubeチャンネル「高野さんを怒らせたい。【きしたかの】」での高野への手の込んだドッキリがバズったり、『チャンスの時間』(Abema)の「きしたかの日本最速iPhoneチャレンジ」で「#高野のiPhone」が2日間Twitterトレンドに入り続けたりといったことをきっかけにブレイク。高野が見せるリアクションの良さから、『ラヴィット!』(TBS)など地上波番組のドッキリ企画への出演も増えている。 岸は昨年の『M-1』準々決勝当日、オズワルド伊藤と交わしたやりとりで悔しさを感じたという。岸自身は「準々決勝が最低ラインで、決勝行くとか考えてなかった」が、伊藤に「準決勝と決勝でネタは変えるの?」と聞かれたことで「伊藤は俺らが決勝に行くつもりでいてくれたのに、俺は準決に行ければいいと思ってた。『なんで伊藤のほうがきしたかのを高く買ってるんだよ』と思ったらめちゃくちゃ悔しくなって」と、決勝経験者の視線の高さに心を動かされことを告白。「今年はオズワルドの一個上を目指す」と宣言した(Podcast『N93 きしたかののブタピエロ』#20)。蓋を開けてみればオズワルドも準決勝敗退となり、奇しくも敗者復活戦で争うことになった。上回られることのない順位を奪取できるか。 ■フースーヤ 田中ショータイム/谷口理 所属:吉本興業(大阪) 結成:2016年 デビュー2年目の2017年、若手発掘バラエティ『新しい波24』(フジテレビ)をきっかけに「オーマイゴッドファーザー降臨!」「よいしょー!」とテンポの良いギャグでブレイク。勢いは長くは続かなかったが、その後、大阪の劇場で揉まれるうちに「ちゃんと漫才で認められたい、実力あるって思われたいという気持ちがどんどん強くなって」いったという。 そのうえで「ふたりともこれがおもろいと思ってるんで」と信じるギャグ漫才の道を突き進み続け、この数年はネタの評価がメキメキと上昇。芸人の間でもお笑いファンの間でも「フースーヤが面白い」という声が大きくなっていき、2021年の『M-1』では予選動画が大ハネする。それでもこの年も翌年も準決勝には届かず、今年は「いよいよ来るのでは」と囁かれていた。 本当にしつこく、あきれるほどしつこくギャグやノリを繰り返すのが彼らの面白さの真骨頂だが、4~5年前から「ショータイムがノリやって僕がボケてショータイムがツッコんでくれて、ここでしっかりウケるものをつくるようになってきた。そこがウケた上でギャグ入れたらほかのコンビに絶対負けないんで」(以上すべて太田出版『芸人雑誌vol.6』より)と、より漫才としての形を意識してネタを構成するようになったという。熱い想いとストイックさに裏打ちされた明るく楽しい漫才で敗者復活戦を盛り上げることだろう。 ■バッテリィズ エース/寺家 所属:吉本興業(大阪) 結成:2017年 コンビ名から明らかなように、2人とも野球経験者。漫才劇場の芸人たちで結成された草野球チームではエースがピッチャー、寺家がキャッチャーとして活躍している。独特な髪型のエースは、しゃべり方から佇まいから“少々ガラは悪いが元気なアホ”らしさにあふれており、アホならではの視点とストレートさでツッコむさまが笑いを誘う。一方、同期のダブルヒガシは、今年『ytv新人漫才賞』で優勝した際に「エースが言うた通りの間(ま)にしてよかった」「あいつがおらんかったら、あかんかった」(Podcast『はちくちダブルヒガシ』#40より)と直前にネタの相談をしたことを明かしており、劇場の仲間たちから信頼を得ているのが垣間見える。 先輩からの期待も厚く、スーパーマラドーナ武智は「身近にあるものなのに切り口が新しい」、モンスターエンジン西森は「ネタの作りとしていらんことをしてない」と、要注目コンビとして名前を上げる(ABCアーク『M-1公式ガイドブック』より)。ちなみにネタをつくっているのは寺家のほうだ。ファイナリストのカベポスターも同期で、ユニットライブを共に長らくやってきた。彼らの待つステージを目指して元気に戦い抜く。 ■エバース 佐々木隆史/町田和樹 所属:吉本興業(東京) 結成:2016年 まだ賞レースで目立った成績は残していないが、期待値は高い。デビュー3年目頃から、囲碁将棋やニューヨーク、オズワルド、ダイタクなど東京吉本の漫才師たちがこぞって「育ててくれた人」としてその名をあげる作家・山田ナビスコに目をかけられている。ちょうど1年前に同氏が「ここ1年で伸びそうな芸人」として「まったく認知されてない芸人なら、ネタはエバース(中略)ここ1年でめちゃくちゃ覚醒するんじゃねえかな」(2022年12月3日掲載 「NewsCrunch」より)と太鼓判を押した通り、今年は一段上の場にたどり着いた。 ベタなテーマでもやや突飛なテーマでも佐々木のボケのワードに必ず一捻りあり、そこに町田の力強いツッコミが差し込まれて思いもよらない方向に話が転がっていくしゃべくり漫才が魅力。 なお、上述のバッテリィズと同じく野球経験者で、コンビ名の由来はバントの構えからバットを引いてボールを見送る動作の名称。ネタには野球ボケが入ることもある。ぜひ2組で若者の野球離れを食い止める存在になってほしい。 ■ナイチンゲールダンス 中野なかるてぃん/ヤス 所属:吉本興業(東京) 結成:2017年 ボケの中野なかるてぃんは一橋大学、ツッコミのヤスは日本大学でそれぞれお笑いサークル・落語研究会に所属。学生お笑い出身で、その後にNSCを首席で卒業する流れは1期下の令和ロマンと同一だ。学生時代のヤスは、大学ごとに行われていたお笑いの大会を統一して20校以上にまたがる大会をつくるなど、カリスマ的存在だったエピソードがよく語られている。プロデビュー後も神保町よしもと漫才劇場を主戦場に主催ライブを多数打ち、存在感を発揮してきた。 一方で、2018~2020年までの3年間、若手漫才師が最も目指すところであるはずの『M-1』にはあえて参加してこなかった。「『M-1』が大好きだからこそ、とりあえず出ようみたいな腑抜けた気持ちでは出たくない(中略)納得のいくネタが2本できれば、挑戦すると思います」(2020年11月18日掲載 「FANY Magazine」より)と公言しており、「尖っている」と言われることもあった。2021年に満を持して再挑戦すると、いきなり準々決勝進出。実力を見せつける格好となった。今年は正月の『おもしろ荘2023』(フジテレビ)で準優勝、夏の『ツギクル芸人グランプリ』で優勝と波に乗る。この勢いで1年間の最高の締めくくりを迎えたいところだ。 文・斎藤 岬、編集・横山芙美(GQ)
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