八木莉可子、ベースにあるのは“中学時代の体験”:インタビュー
俳優の八木莉可子が、4月12日から東京・サンシャイン劇場で上演されるニッポン放送開局70周年記念公演『鴨川ホルモー、ワンスモア』に出演。京都大学青竜会一回生の早良京子を演じる。万城目学氏が原作の同作は、二浪の末に京都大学に入学した安倍(演・中川大輔)が、ひょんなことから、1000年前から伝わる“オニ”と呼ばれる生き物を使った謎の競技“ホルモー”を繰り広げるという怪しいサークル“京大青竜会”に入部。そのホルモーなる謎めいた競技をめぐる、京都の大学生たちの青春群像劇でありリグレット劇となっている。インタビューでは、配信ドラマ『First Love 初恋』、NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』、ドラマ『パリピ孔明』などに出演し、注目を集めている八木莉可子に、自身初舞台に臨む姿勢から、稽古現場でのエピソード、心の支えになっているという中学生時代の話を聞いた。【取材・撮影=村上順一】 【写真】八木莉可子、撮り下ろしカット ■舞台は見てもらうための芝居 ――『鴨川ホルモー、ワンスモア』に、出演が決まった時の心境はいかがでした? 元々ヨーロッパ企画さんの舞台がすごく好きで、まさか自分の初舞台がヨーロッパ企画さんの舞台だなんて、とすごく嬉しかったです。でも、初舞台なので不安な気持ちもちょっとありました。 ――舞台と映像作品、演じる側としてどのような違いを感じていますか。 舞台は“見てもらうための芝居”ということを感じています。映像だとカメラで寄ってもらえるので、遠くの人にまで見えるお芝居という感じではなく、リアルさを求められている印象が自分の中にあります。舞台になるとお芝居を大きくしたり、背を向けてお芝居をしてはいけない。たとえば観客の皆さんに背を向けて泣いているけど、こういう風に泣いているんだ、というのが分かるように前を向いたりします。それもあって普段リアルではしないような、見せるお芝居をすることが、いまの自分の課題だなと感じています。 ――発声も変わってきそうですよね。 まだ本稽古が始まってそんなに経っていないので、声の部分に関しては直面していないのですが、「ホルモー!」と叫ぶ方もいるので、飴を舐めながら「みんなで労わらなきゃね」とかいいながらお稽古しています。(笑)。 ――八木さんは怖いものが苦手という記事を拝見したのですが、『鴨川ホルモー』のようなオニや妖怪っぽいものが登場する作品は大丈夫ですか。 グロテスクな作品はちょっと苦手なところがあるのですが、歴史ものや和ものは好きなので、『鴨川ホルモー』はそういった要素もあって、とてもおもしろいです。 ――八木さんは滋賀出身で、『鴨川ホルモー』の舞台となっている京都に近いので親近感もありますよね。 京都に遊びに行くことも多々あったので、馴染みのある場所が出てきたりして、そういう点でもおもしろかったです。また、京都大学など本作に登場する大学は、私の友達が実際に通っていたりしますし、とても身近な感じがしています。 ――八木さんが演じる京子にアプローチするにあたりどのような準備をされましたか。 稽古が始まる前に京都に行けないかなとは考えていて、たまたま数日オフの日があったので京都に行きました。そして作中でも登場する吉田神社に行って、「自分のお芝居がちゃんとできますように」、「キャストのみんなが最後まで安全に駆け抜けられますように」とお参りしてきました。また、吉田神社の近くに京都大学があるので、ちらっとキャンパスを覗かせていただきました。鴨川にも何回も行ったことがあったのですが、「ここに京子が通ってたんだ!」など改めてイメージすることができたとても良い時間でした。 ――他の作品に出演される場合でも現地に行ったりされますか。 スケジュールにもよるんですけど行けるタイミングがあれば、私は気になって行っちゃうタイプです。自分は感覚的、体感的なところから掴むのが好きで、そうやってブラっと現地に行く時間とか好きなんです。 ――さて、安倍を演じる中川大輔さんと接する場面も多いと思いますが、お話されてみていかがでした? 中川さんとは初めてお会いしたのですが、共通の友人が何人かいて、お会いする前から「私と中川さんが似ている」と言われていました。さきほど取材で喋っていたら、中川さんも同じようなことを仰っていました。 ――共通の話題もあったり? はい。お互い歴史が好きなんだというのを知りました。同じタイミングで山口県の壇ノ浦に行っていたみたいなんです。また、中川さんは皆さんに優しく接してくださるので、その優しくて温かい雰囲気が座組全員に伝わっている気がして、みんな和気あいあいとしていて、すごく楽しいです。 キャストの皆さんみんな個性豊かでそれぞれの役目を果たしているといった感じです。先輩もたくさんいらっしゃるんですけど、いい意味でお芝居をしている時はフラットと言いますか、大学のサークルにいるかのようなお芝居をしている感じがあって、その雰囲気がすごく素敵だなと思いました。 ■ ヨーロッパ企画の舞台の魅力 ――八木さんが感じるヨーロッパ企画の魅力はどこにあると思いますか。 言葉で表すのはなかなか難しいのですが、独自の雰囲気だったり、世界観を持っていらっしゃるイメージがあります。ちょっとしたニュアンスで、「ヨーロッパ企画さんの舞台に出させてもらっているんだ」と感じるところがたくさんあります。私がその中でも特に好きなのは、散りばめられたユーモアです。伏線がすごく張り巡らされているなかで、それをユーモアで回収されたり、そんなところを突いてくるかといった、シュールな笑いもあります。 たとえば本作では関西の方が分かるような、スーパーフレスコとかリカーマウンテンといったお店の名前が出てくるのですが、そういうところにクスッときます。細かいところまでこだわって作られていて、 1 回観ただけでは把握しきれないぐらいユーモアが詰まっているので、私はそこがヨーロッパ企画さんの魅力であり好きなところです。 ――ストーリーの中で、山崎まさよしさんの名前が出てきたり、そういうのもすごく面白いなと思いました。そして、安倍がさだまさしさんが好きだから、音楽の話もけっこう出てきますよね。 大学生のお話なので、若い人にも楽しんでいただけると思うのですが、レナウンのCM曲「ワンサカ娘'64」で歌って踊るシーンがあったり、それはCMを観ていた世代の方も懐かしく感じていただけると思います。また、「関白宣言」風に説明がされるところや、山崎まさよしさんの「セロリ」が出てきたりもするので、そういうユーモアもきっと「おっ!」て思ってもらえるんじゃないかなと思います。演出の上田誠さんは、喜劇にしたいとおっしゃっていて、笑ってもらえるポイントがたくさん詰まっているので、いろいろな世代の人に楽しんでいただけたらと思っています。 ――中川さん演じる安倍が、八木さんが演じる京子の鼻に魅了される描写がありますが、そこに関してはどう思われました? 鼻については原作にも書かれていて、私、大丈夫かなと思いました(笑)。鼻について歌われたり、京子が小首をかしげたら地軸が傾くみたいなことまで言われているんです。いまキャストの皆さんに注目されているだけでも何とも言えない気持ちになっています。今もこんなにドキドキしてるのに、本番で何百人の人に見られたらと思うと、どうなるんだろうなと思いながら、過ごしています(笑)。 ――あはは(笑)。それは緊張しますよね。さて、八木さんが本作でお好きなシーンは? 高村のお家がへんぴなところにあることから、安倍が「人間の生命力と可能性を試される」と言うんですが、それに対して高村を演じる鳥越(裕貴)さんが関西弁で「怒られるぞ」って言うシーンがすごく大好きで、なんとも言えない絶妙なニュアンスのツッコミで、何回見ても笑ってしまいます。 ■中学時代の体験や経験が 1 つ大きなベースとしてある ――4月は入学式や新社会人になる方も多く、新たな出会いの季節でもありますが、八木さんが、この出会いや経験は大きかったと思うものはありますか。 中学生の頃の記憶が自分の中で印象に残っています。みんなでなにかやるのがすごく楽しくて、生徒会長や学級委員にも立候補していました。学校のみんなも好きだったし、先生も心に残る言葉をくださったり、あの時の楽しかったという記憶がいまだに自分を支えてくれているところがたくさんあります。あの時に得られたいろんな感情、あの時間が今の自分を形成してくれている気がして、中学校生活というのは自分にとってターニングポイントでした。 ――その時にあった出来事全てが自分の中で大きなものになっているんですね。 はい。高校を卒業したタイミングで、世の中はコロナ禍になってしまいました。私は上京してお仕事の幅も広がったのですが、それに比例するかのように悩む時間も増えてしまいました。そうなった時に前向きな部分を作ってくれたのが、中学時代の体験や経験で、自分の中に1つ大きなベースとしてあるなと思っています。 ――その中学時代で特に楽しかったことは? お昼ご飯の時間が1番好きで、文集の1番楽しかった事は? という欄に「お昼ご飯」って書いていました(笑)。体育祭とか大きなイベントよりも何気ない時間、みんなでワチャワチャしていた時間がすごく楽しかったです。『鴨川ホルモー、ワンスモア』も、日常を描いているシーンと、浮世離れしたシーンとの融合がおもしろいと思っています。 (おわり)