本木雅弘「役者生活40年」スペシャルインタビュー 「実は役者が天職だとは思っていません」
「役作りをすればするほど、演じる役に比べて自分はなんて至らない人間なのだろうって思うんです」 【未掲載カット】大人の色気が溢れる…本木雅弘「役者生活40年」素顔写真 俳優の本木雅弘(57)は、少し俯(うつむ)きながら、ポツリと話し始めた。11月11日に放送される最新作『友情~平尾誠二と山中伸弥 「最後の一年」~』(テレビ朝日系)では、選手や指導者として日本ラグビー界を牽引し、’16年10月に胆管細胞癌で逝去した平尾誠二氏を演じた。 「私が演じる役は、自分とかけ離れた良い人が多いんです。平尾さんは私より2歳年上。彼が所属していた神戸製鋼ラグビー部が日本選手権を7連覇していた当時、私はグループ活動を終え、一人で何とか頑張ろうとしていた余裕のない時期でした。そんななかでも、ニュースで見た平尾さんの姿は印象に残っています。華があって、男でも惚(ほ)れる独特なオーラを放ち、軟派な自分とは大違い。野性味と鋭さとおおらかさがある、そんな男の雰囲気はどうやっても再現できない。私の中では、白洲次郎さんと並んで絶対手を付けちゃいけない人だと思ってました」 映画『おくりびと』の撮影時には納棺師の仕事を体験、本作でもラグビー元日本代表の後藤翔太氏(40)に指導を仰いだ。 「実は役者が天職だとは思っていないんです。世間の70%くらいの人がそうなんじゃないですかね? 天職だと言いきかせて仕事をしている。自分には人の懐(ふところ)に入っていける器用さはないし、役柄に共感しきれない部分がある。まずは形から入って、無理やりにでも心を寄せて、ようやく役作りの入り口に立てる気がします。まあ、少し体験してみたところで役の本質には到達しないのですが……。常に偽物の自分との格闘です。役になりきれる自信がないから、知識とかわずかな体験から得た感覚で埋めていくしかない」 手元には、びっしりとメモが書き込まれたノートが握られており、ひとたび平尾氏のことについて語り始めると止まらない本木。病床に伏す平尾氏を演じるべく、肉体づくりも行ったという。 「平尾さんは絶食と抗がん剤による治療で、ゲッソリと痩(や)せていきました。私に課されたのは3週間でその姿に近づくこと。元来、71㎏ほどだった体重を61㎏まで落としました。最初の3~4日は専用のジュースだけを飲み、徐々に固形物を食べ、有酸素運動で体重を落とす。お腹やお尻は老人のように薄くなりました。ただ、自分はこれが終わればなんでも食べられるからやれた、期間限定の減量なわけで。現実は内側から枯れるように痩(や)せていく……。平尾さんの闘病生活の凄絶さや、そのなかでも自然体を心がけ、明るく振る舞う凄さを改めて痛感しました。山中伸弥教授(61)が言っていた『平尾さんは対応力の塊』とはこれなのかと」 さらに本木は、平尾氏の妻・惠子さんとの対話も行い、本番では、病床に伏す平尾氏の家族に対する柔和な口調を心がけた。その用意周到さは、幼少期からの性格にあるという。 ◆「エゴサーチはすごくします」 「子供の頃、母親に小学校であった出来事などを話すのですが、その度に、自分はこういうところがダメだとか、あの子もあれがダメだ、先生も……とかブツブツ文句ばかり言っていました。母親には『何の生産性もない』と叱られていましたね(笑)。ネガティブなんです。俳優は人間を信用しないとできない仕事だと思っていますが、自分はどうも疑い深い。『本当にこんないい人いるの?』とか、『この場面でこんなこと言えるの?』とか。でもその疑念を通過しないと人間の奥が覗けないと思うんです。こんなことばかり考えているので、人に興味はあるけれど人と関わることが本当に面倒で、正直、自分のことも含めて人間が嫌いです(笑)」 40年あまりも芸能界で活躍してきた本木だが、いまだに他人の目や評価が気になるという。 「この性格ですから、エゴサーチはすごくします。とくに、今回のドラマなんて超必須ですよ! きっとコアな平尾さんファンに『全然違う』と叱られるでしょう……。でもだからこそ、本物の平尾さんの魅力を再認識していただくことになれば本望です。私のやっている仕事は水物の商売。人に流されてしまうような危うさもある。その反面、自分では思い付かないような方向に向いたり、世間の反応に動かされたり……。漂流していくことの面白さがあります」 終始、本木は、自らを「軟派」「ネガティブ」「偽物」などと卑下(ひげ)してみせた。しかし、写真の撮影中や待ち時間など、隙あらば平尾氏について語る姿に、役者としての強い芯を感じた。 『FRIDAY』2023年11月10・17日号より
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