自公過半数割れ、連立政権風前の灯火で「経済」は後回し…!それでも次の政権が絶対に実現すべき「経済政策」はこれだ
年金改革は放置できない
制度改革が必要な経済・財政問題として、年金改革がある。来年度は年金改革の年であり、対処が必要な課題は24年7月に公表された財政検証に示されている。特に重要なものは次の3つだ。 第一は、国民年金の給付額が低下していくことに対する対策。第2は、サラリーマンの世帯の専業主婦が、保険料を支払わずに基礎年金を受給できる制度(3号保険者制度)をどのように見直すか。第3は、退職老齢年金(年金受給年齢になっても給与所得を得ていると、年金の一部をカットされる制度)の廃止。これらの問題の処理には、財源措置が必要になるものもある。 年金問題はすべての国民の老後生活に関わる重大な問題であり、放置するわけにはいかない。どのような見通しに従って改革を進めるかを明らかにする必要がある。 社会保障制度の問題としては、これ以外に、医療保険や介護保険における保険料率と自己負担率引き上げの問題がある。 この問題には、金融資産所得に対する課税の問題が深く関わっている。石破氏はこの制度改革を従来から指摘していたが、自民党総裁就任直後に株価の下落に見舞われて封印してしまった。これは岸田内閣の場合と全く同じ経緯だ。本来であればこの問題を再び取り上げて欲しいものだが、政権基盤が弱体では、とても無理かもしれない。 この問題に限らず、社会保障制度の問題は重要だ。その問題の多くは、財源措置を要するものであり、新たな財源が必要だ。ところが政権基盤が弱ければ、とてもそうした課題に手をつけることができないだろう。日本の社会保障制度がこれから維持できるのかどうか、極めて心配だ。
バラマキ経済対策をやめよ
政権基盤が弱い政権が取る政策は、人気取りのためのバラマキ政策だ。今後の政権もこの道に突き進んでいく危険が大きい。 自民党は、総選挙で、選挙後に経済対策を行うことを約束した。公明党も物価対策を行うことを選挙で公約している。したがって、物価対策として、電気・ガス料金の補助、ガソリン料金の補助を継続することとなる可能性が高い。 この政策は、物価高騰に対する緊急策として導入されたものだ。電気・ガス料金補助は、今年5月にいったん停止されたが、8月から10月まで一時的に復活した。 しかし、この政策には問題が多い。まず、価格を本来の水準より低下させることになるので、エネルギーの節約に反する。また、高額所得者や、利益が増加している企業も受益する。 さらに、消費者物価指数が実態とかけ離れた数字を示してしまうことになる。先に、実質賃金の問題を述べたが、実質賃金を正確に測定するためには、消費者物価が正確なものでなければならない。ところがその消費者物価が、物価対策によって不規則な動きをしてしまうのだ。物価が上がっているのか下がっているのかさえ分からなくなってしまう。これは、壊れた体温計のようなものだ。日本はいま、自分の体温がどうなっているのかを正確に知りえない状態になっている。これは誠に由々しき事態だと考えざるを得ない。 自民党は、経済対策の規模に関して、一般会計の歳出総額で13兆円超になった2023年度の補正予算を上回る規模にするとしている。本来、予算額は、必要な経費を決めた後の結果として決まるものだ。中身が決まっていないのに予算額だけが先行するというのは、誠におかしな事態だ。 コロナ期以降、補正予算でばらまき政策を行うことが慣習化してしまった。必要性の疑わしい政策を、国債の発行で賄う政策だ。基礎的財政収支を25年度に黒字化するという目標は、とっくに忘れ去られているようだ。
物価を引き下げるには金融の正常化が必要
すでに日本銀行は金融正常化を進めており、石破氏も、自民党総裁選まではアベノミクスの検証が必要であるとの持論を展開していた。ところが、石破氏はその後、180度の方向転換をした。10月2日には、首相官邸で植田和男日本銀行総裁と会談後、「個人的には現在、追加の利上げをするような環境にあるとは考えていない」と記者団に述べた。 しかし、実質賃金を引き上げるためには、まず物価上昇を食い止めなければならない。そのための最も重要な政策は、金融正常化を進めて、為替レートを円高に導くことだ。少なくとも、日銀の政策に圧力をかけて、利上げのスピードを抑えることではない。
野口 悠紀雄(一橋大学名誉教授)