藤津亮太の「2023年 年間ベストアニメTOP10」 テレビシリーズも粒揃いの豊かな1年に
リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2023年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、アニメの場合は、2023年に日本で劇場公開・放送・配信されたアニメーションから、執筆者が独自の観点で10作品をセレクトする。第14回の選者は、アニメ評論家の藤津亮太。(編集部) 【写真】『天国大魔境』第8話の夕景は素晴らしかったーーアニメ化決定ビジュアル ・『オーバーテイク!』第8話「同じ穴のムジナたち -Y’know what makes a fast driver?-」 ・『もういっぽん』第1話「いっぽん!」 ・『呪術廻戦』第29話「玉折」 ・『TRIGUN STAMPEDE』第12話「HIGH NOON AT JULY」 ・『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』第7話「今日のライブが終わっても」 ・『柚木さんちの四兄弟。』第6話「宇多、恋の行方」 ・『天国大魔境』第8話「それぞれの選択」 ・『アイドルマスターシンデレラガールズ U149』第1話「鏡でも見ることができない自分の顔って、なに?」 ・『REVENGER』第12話「The Sun Always Rises」 ・『いきものさん』第10話「雨の回」 ※順不同 今年の映画は素晴らしいものが多く、挙げようとすると映画ばかりになってしまうので、思い切ってテレビシリーズの中のあるエピソードだけに絞って選ぶことにした。WEB上でアニメファンが行っている年末の恒例企画「話数単位で選ぶ、TVアニメ10選」と同じ趣向だ。 『オーバーテイク!』第8話は物語の転換点。3人の登場人物が、それまでいた場所から、新たな場所へと居場所を変えることで、「自分が今まで見てきた風景」が相対化される。この変化を、ちょっとしたセリフで見事に浮かび上がらせた。レースシーンの多彩なカメラワークで魅せる第1話とどちらを選ぶか迷ったが、丁寧なドラマ作りがより本作らしいと思い第8話を選んだ。 とくに特別なことは起きていないのに心が震えたのが『もういっぽん!』第1話。柔道を辞めたはずの主人公が、もみ合った挙げ句なりゆきで技を決めてしまうことで、物語が動き始める。体育館の窓から差し込む光を使った演出で、開幕の一瞬が魅力的に描かれていた。光の演出でいうと、第5話のやさしい色合いの夕日に包まれた電車の車内も印象的だった。 逆に特別なことしか起きないのが『呪術廻戦』。第2期第28話が最強になりハイに振る舞う五条悟を中心とした「動」の回だとすると、第29話「玉折」は、夏油傑の心が蝕まれていく様子を描く「静」の回。夏油が自分なりに思考を深めていく廊下のシーンのカット割りがいい。中村悠一、櫻井孝宏の対照的な演技も加わって、ヒグラシの鳴き声とともに「青春の終わり」に立ち会ったと思った。 確執のある2人の対決というなら『TRIGUN STAMPEDE』第12話もすごかった。「手描きアニメに擬態することをやめた」というOrangeによる本作は、3DCGらしからぬ“柔らかさ”でキャラクターの存在感を訴えてくる。やがて作られるであろう第2期へと物語をつなぐ第12話は、これでもかというアクションを盛り込んで、視聴者を飽きさせない。技術的な意味でも、ドラマ的な意味での「先が観たくなる」最終回だった。 3DCGではあるがテイストは大きく違う『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』も印象に残った。タイトル通り“自分がどこにいるかわからない=迷子”のメンバーたちが、時にぶつかり合いながらバンド活動を行う。ファーストライブを描いた第7話は、前半が控室の様子を定点カメラで見せた後、後半はライブシーンで動的な動きで解放感を出すというコントラストが印象的。最後に爆弾発言が飛び出して、ドラマ的なインパクトも強い。 『柚木さんちの四兄弟。』第6話は三男・湊と幼なじみの宇多との恋愛騒動をめぐるエピソードの後編。実写フィルムの挿入の生っぽさや、曇り空を積み重ねた上でのラストの晴れ間など、キャラクターの心情に寄り添った演出が効果的で、客観的に見ればささやかな物語でも当人にとっては“人生の一大事”であることが伝わってくる。 『天国大魔境』第8話は、“医師”と呼ばれる男性と、機械に繋がれている女性の関係性が描かれる。2人の関係性が具体的に明らかになるのは物語がもっと進んでからだが、光と影、瞳に映る空、夕景とカラスといった要素が情緒をかきたて、粒ぞろいの各話の中でも特に印象に残るエピソードだった。 『アイドルマスターシンデレラガールズ U149』は、「シンデレラガールズ」の中でも小柄な女の子だけ集めたユニットを扱うシリーズで、「あざとい」作品になるのかと思ったら、そうではなかった。描かれたのは「大人の都合」と「子供の気持ち」のズレ。第1話では、そのズレの合間で右往左往する新人マネージャーと、子供代表である橘ありすの心の距離の変化を、大胆なレイアウトや階段を舞台にした演技で組み立てていて、おもしろかった。 『REVENGER』はフィクショナルな長崎を舞台にした“必殺もの”の時代劇。こういうテイストの作品はもっとあってもいいと思うが案外少ない。阿片中毒の陰間が尼寺で売られているという第7話もインパクトがあったが、最終回の第12話を選んだのは、その幕切れが実に“らしい”締めくくりだったからだ。 『いきものさん』は、短編『グレートラビット』(2012年)でベルリン国際映画祭短編部門で銀熊賞を受賞した和田淳によるテレビアニメ。意味不明な儀式(?)を気持ちのいい動きで描く和田の作風でテレビアニメが成り立つのかと思ったが、見事に和田の世界とポピュラリティが両立していた。第10話は「動きの気持ちよさ」に音楽が加わって快楽がマシマシの一編。
藤津亮太