安西水丸さん没後10年、知人たちの「何かできないか」でできた1冊 先が見えない人生のような旅の行先は…『1フランの月』
【BOOK】 イラストレーター、作家として知られる安西水丸さん。『村上朝日堂』など村上春樹氏との共著もあり、多くの村上作品でイラストを担当すると共に、本名の「渡辺昇」「ワタナベノボル」と同姓同名の人物が登場する作品も。没後10年、その記念として上梓されたのが本作だ。未完の原稿を元に1冊の本にまとめた経緯を、小学館第二ブランドメディア局の宮澤明洋さんに聞いた。 ――新刊は安西さんの『手のひらのトークン』(新潮文庫)の続編という位置づけです 「水丸さんをよく知る者同士が集まりワイワイと話していたとき、没後10年で何かできないかなという話になったんです。すると、当時新潮社で『手のひらのトークン』を担当した上田恭弘さんが『ぜひ続編をとオファーして快諾を得たものの、結局完成しなかった原稿がありますよ』という。そこですぐに出版交渉を始めました」 「『手のひらのトークン』が出たのは1990年。主人公の『ぼく』は勤務していた広告代理店を辞めてあてもなくニューヨークに行き、少し遅れて渡米してきた里美という女性と暮らします。その2年間の出来事がフィクションとノンフィクションが入り交じった形で描かれました」 ――よく原稿がありましたね 「遺された原稿を実際に見て驚きました。400字詰め原稿用紙に測ったようにピッタリの、しかも校正の跡がほとんどない50枚が3セット、愛用のブルーのインクの万年筆で書かれていました。水丸さんは70年代初頭にニューヨークからヨーロッパ各国を放浪して帰国しましたが、この続編を書くにあたって2週間ぐらいの日程で当時の旅を追体験したそうです」 ――今作も「旅」がテーマです 「水丸さん自身がいろんな国の人々との付き合い方や旅の楽しみ方の達人だったこと。またスマホもインターネットもない時代の、偶然と必然が一体化したような人や物との出会い・別れが、70~80年代の時代感と共に淡々とつづられていましたから。出会う人々は魅力的ながらどこか謎めいていて、少し怪しげだったりもする。そしてそうした人々との関連性の中で『ぼく』は、ぶつかったり流されたりしていくんです」 ――激動の時代です