縄文時代の漆器よみがえれ 川俣の前田遺跡 出土の遺物から製法調査 謎を解明、複製へ
縄文時代の漆器をよみがえらせる試みが、川俣町で始まる。町教委が町内の前田遺跡から出土した漆製品の製法を調べ、謎を解き明かして複製する。前田遺跡は漆器をはじめ、原形をとどめた遺物が数多く見つかっており、町は国指定史跡を目指している。漆器の複製を通して遺跡の学術的価値の高さを広く発信し、地域の誇りの醸成や観光振興につなげたい考えだ。 縄文人の漆塗り技術は精巧で美的感覚に満ち、現代にも通じるとされる。複製品作りは遺跡調査に精通した町教委職員が中心となり、考古学や木材の有識者、漆芸家らと連携して進める。伊達市の約20アールの山林で現在、ウルシ約60本を栽培している。前田遺跡からは漆液をかき取った跡が残る木片が出土しており、幹に傷を付けた石器の形状を推測して作り、育てた木から漆液を採取する。器となる木材の切り出しや磨き上げ、漆の塗布、乾燥まで一連の流れを再現する。 出土した漆器に塗られていた漆の成分を県文化振興財団が分析したところ、不純物が取り除かれ、3~5層に重ね塗りされていた。漆液から不純物を取り除く技術や塗布用の刷毛(はけ)の素材、美しく塗るための温度や湿度の管理法などは現時点で謎のまま。専門家らの助言を受け、レプリカを作る。
県教委による前田遺跡の調査は終了し、町教委は2022(令和4)年度から2025年度までの計画で周辺調査を続けている。報告書をまとめ、2027年度にも文化庁に国史跡の指定を申請する方針。漆器の複製は報告書の作成と同時に進め、史跡指定が実現した際の誘客の目玉にしたい考えだ。遺跡の様子をVR(仮想現実)で再現する事業なども想定している。 町の前田遺跡指導員を務めている東京都立大特任教授の山田昌久さん(70)=考古学=は、出土した漆器のデザインに木目が意図的に取り入れられているとの見方を示す。「他の遺跡ではあまり見られない貴重な資料だ」と話す。佐久間裕晴町教育長は「遺跡は町の財産。町内外の人に魅力を知ってもらう取り組みを進めていく」と誓った。 ※前田遺跡 川俣町中心部から南東約3キロの小綱木地区にある。約4800年前の縄文時代中期後半から約2300年前の晩期末までの約2500年間、縄文人が断続的に生活していたとされる。面積は約1万6300平方メートル。県の「ふくしま復興再生道路」に位置付けられる国道114号の改良工事に伴い、県教委が2018(平成30)年7月から2021(令和3)年10月にかけ調査した。鮮やかな色彩の木製漆器をはじめ、自然素材で編まれた籠など数多くの遺物が良好な状態で出土した。