ハンブレッダーズ、音楽に人生を変えられて15年。愛と感謝にあふれた初の日本武道館ワンマン
大阪出身の4人組バンド、ハンブレッダーズが10月9日に〈ハンブレッダーズ ワンマンライブ 放課後Bタイム ~15th Special~〉を日本武道館にて開催。その日の模様をレポートする。
音楽へ恩返しするように力強く温かいステージを見せる4人
「スクールカーストの最底辺から青春を唄いに来ました」 「DAY DREAM BEAT」をかき鳴らし、ムツムロ アキラ(ヴォーカル&ギター)によるお馴染みの言葉で幕が開けた。結成15周年。満員御礼の日本武道館初ワンマンを前に、晴れ晴れとした表情の4人。でもそこにあったのは、スクールカースト最底辺からの逆転ストーリーでも、あの頃の青春を取り戻すようなものでもない。自分たちをここまで連れてきてくれた音楽とリスナーへの恩返しのような時間だった。 まるで学校の体育館のステージを思わせるような、木目調の床と赤い緞帳が垂れ下がった装飾。高校1年の頃、文化祭に出るために結成されたハンブレッダーズらしい装いだ。その文化祭での初ライヴは散々な出来だったらしいが、そこからバンドの楽しさに魅了され、活動を続けてきた。炎がバンバン上がった「ギター」では、でらし(ベース)とukicaster(ギター)がサイドの花道に飛び出し、ステージセンターに戻ってきてプレイしたあとにハイタッチ。ukicasterの足に自らの足を乗せてギターをかき鳴らすムツムロしかり、冷静ながらも力強いビートを刻むドラムの木島しかり、武道館という大舞台への気負いはまるで感じない。むしろ学園祭でテンション上がってしまった男子高校生のような空気感に、観ている側も自然と気分がアガる。 「曲を作る時の根底には17歳の自分がいて、その自分が感動できるかどうかっていう大前提は変わってない」。昔のインタビューでムツムロはこんなことを言っていた。その発言どおり、彼らの楽曲には思春期の感覚というのが色濃く染み付いている。例えば、廃盤となっている『RE YOUTH』収録の「席替え」と最新アルバム収録の「十七歳」を続けて披露したシーン。年齢を重ねたことで表現のニュアンスは変わっているが、どちらの曲も真ん中にあるのは、思春期の葛藤や情けなさだ。好きな子に話したいことを話せない、無理やり笑顔を作って毎日をやり過ごす。そんな卑屈な日々の中で出会ったのが音楽やロックバンドだった。〈見開きページにいつか 踊り出る日まで/駆け出す足 高鳴る胸/夢中になれるモノに出会ってしまったんだ〉。「十七歳」のあと、メンバーがひとつの画面に2人ずつ映り、ページをめくるように画が切り替わっていった「見開きページ」の歌詞が胸に染みる。音楽に夢中になって、バンドを始めたことで少年の人生は転がり始めた。学祭に出たところで大きく世界は変わらなかったけれど、その瞬間その瞬間の胸の高鳴りが15年間途切れることなく続いてきた。それが武道館のステージに繋がっているなんて、なんてドラマチックだ。 思春期の感覚が真ん中にあれど、彼らの音楽には、スクールカーストの最底辺だった頃の鬱憤を爆音と一緒に吐き出すとか、満員の武道館に立って見返してやる!といったような精神性は一切感じない。「DANCING IN THE ROOM」で武道館の広いステージで4人が向き合って演奏する瞬間には、小さなスタジオで4人だけでセッションしているような純粋さが滲み、ドラムソロからの「弱者の為の騒音を」は衝動も熱量も巻き込んだ分厚いバンドサウンドがまっすぐ響く。そして、どの曲でも音楽や夢中になったものによって、自分の人生が少しだけ色づく瞬間が唄われていく。音楽を通じて逆襲しにきたわけでも、青春を取り戻しにきたわけでもなく、届けたいのは、自分の気持ちや日常を少しだけ変えてくれた音楽や、この場所まで連れてきてくれた人たちへの愛情と感謝。年齢や時期ではなく、何かに夢中になれている時が青春だとするなら、彼らが唄っている青春は今この瞬間のことなんだろう。 「はじめから自由だった」で「愛してます!」とムツムロが感情を爆発させる。そして「声を出せない人の声を代弁するのがロックバンドだと思う」という言葉のあとに続いた「グー」は圧巻だった。この曲は自分のものだ! 自分のことを唄ってくれている! 音楽を聴いていると、そんな楽曲に出会う時がたまにあるが、ムツムロ自身もそんな経験をしてきたリスナーの一人だ。この曲で唄われているように、音楽を聴いてカミナリのような衝撃が走り、指先が真っ赤になるほどギターを練習してきた。あの頃があったから出会えた音楽があり、今度は自分が作り出していく側だと手を握りしめて決意を固めてきた。その道の先にあった武道館で、音楽へ恩返しするように力強く温かいステージを見せる4人。その姿にフロアからも拳が上がり、大合唱が起きた時、彼らは間違いなくロックバンドそのものだった。 これで終われば感動の大団円。でもラストに「フェイバリットソング」を披露し、アンコールもコロナ禍で作られた「ライブハウスで会おうぜ」では締めず、童貞の男の子の気持ちを赤裸々にさらけだした初期曲の「チェリーボーイ・シンドローム」がエンディングだった。今のバンドの決意や心情を鳴らした曲を最後にしなかったのは、「いいライヴだった」で終わるよりも「楽しいライヴだった」で終わらせたかったのだろう。そんな泣き笑いのラストシーンも、純粋でひねくれもののハンブレッダーズらしさが詰まっていた。 「辞めたいと思ったことは何回かあったけど、バンドが楽しくないと思ったことはなかった」。「はじめから自由だった」の前にムツムロが言った言葉を終演後に思い出す。ハンブレッダーズの青春はこの先もまだまだ続いていくだろう。 【SETLIST】 01 DAY DREAM BEAT 02 ギター 03 ワールドイズマイン 04 再生 05 いいね 06 常識の範疇 07 席替え 08 十七歳 09 見開きページ 10 名前 11 AI LOVE YOU 12 DANCING IN THE ROOM 13 サレンダー 14 フィードバックを鳴らして 15 弱者の為の騒音を 16 東京 17 CRYING BABY 18 ⚡️ 19 光 20 はじめから自由だった 21 グー 22 フェイバリットソング ENCORE 01 BGMになるなよ 02 ライブハウスで会おうぜ 03 チェリーボーイ・シンドローム
竹内陽香(音楽と人)