【バスケ】親愛なるニック・ファジーカスへ、辻直人による1300文字の手紙を全文収録
バスケットボール男子元日本代表のニック・ファジーカス(38=B1川崎ブレイブサンダース)が、今季限りで引退した。来日以来12シーズンにわたって川崎一筋でプレーし、日本代表としても活躍。5月31日に開催されたBリーグ・アワード・ショーでは、日本バスケ界への功績がたたえられ、功労賞を受賞した。 【写真】ファジーカス(左)に贈る手紙を読む辻直人 その表彰式では、長くチームメートとして同じ時間を過ごし、移籍後も親友関係にある辻直人(34=群馬クレインサンダーズ)が祝福スピーチ。「こうして手紙を書いたのはいつ以来か思い出せない」と前置きしたうえで、熱いメッセージを読み上げた。 表彰式後に辻は、手紙を書いたのは当日の朝だったと明かした。そして「スピーチの練習として奥さんに聞いてもらっているときに、僕自身が泣いてしまった。だから、本番ではもう泣かなくていいかなと思っていたけれど…最後の最後にやっちゃいました」と照れ笑いを浮かべた。 ファジーカスだけでなく、多くの人々の心を揺さぶった親友への手紙。辻本人の承諾を得た上で、約1300文字にわたる全文を掲載する。 ◇ ◇ ◇ ディアー、ニック・ファジーカス。 あなたのキャリアの中で、あなたと出会い、あなたを尊敬し、魅了された数多くの人のうちの1人として、そのみんなを代表して手紙を読みます。 私は、ニックが今シーズンで本当に引退することをいまだに信じられません。来シーズンになれば、また家族でご飯に行ったり、お互いのチーム状況について話したり、対戦相手として戦っている。まだこれまでのシーズンと何も変わらない気がしています。 あなたが日本に来て、当時の東芝ブレイブサンダーズに入団した日をまだ鮮明に覚えています。あなたは来日した時に体育館に行って、練習後のみんなにあいさつをしてくれました。 その後、少しシューティングをしている時に、とてもきれいなシュートを打つなと思ったのと同時に、それよりも足首は大丈夫なのかと、不安を抱いたのも覚えています。開幕前の練習で、私の母校である青山学院大学と試合をしている時に、あなたはフィジカルや高さで戦うのではなく、ひたすらフローターシュートを打っていましたね。その日が、私がニックを見た中で1番フローターシュートを外していた日だったなと思います。なので、本当にニックは大丈夫なのかという不安を抱いたまま開幕戦を迎えました。でも、そんな不安はすぐに払拭され、そんなような不安を抱いたことを反省して、この場を借りて謝罪します。申し訳ありませんでした。 ニック、あなたは何度もチームを作ってくれました。何度も沈みかけたチームを立ち上がらせてくれました。ずっと、チームを引っ張り続けてくれました。そして、そんな私をも成長させてくれました。勝つためのマインド、負けた後のマインド、いいパフォーマンスを出し続けるための姿勢。それは私だけでなく、他の選手はもちろん、すでにクラブにも根付いていると思います。私は川崎を離れて数年経ちますが、そのあなたがチームの先頭に立って積み上げてきた文化は、あなたがいなくなっても、そう簡単に崩れることはないでしょう。そして、私自身もあなたと一緒にプレーをして得た経験というものが、今の私を作り上げてくれました。 ファイナルで負けた時、リーグ初優勝した時、天皇杯の優勝、一緒のチームで最後にリーグ優勝をした時。数多くのタイトルはもちろん、あなたと一緒に戦えたこと、プライベートで過ごした日々、そういったこと全てが私にとっては財産です。1つだけ悔いが残るのは、別のチームになってしまい、引退という大きな節目の時に一緒にコートに立てなかったのは本当に寂しかったので、私が引退する時には、どこからでも駆けつけてください。 最後になりますが、ここにいる選手、関係者の方々、日本バスケットボール界が認めていることですが、あなたは日本バスケットボール界に大きな変化をもたらしてくれ、成長させてくれた1人です。あなたは引退しても、これからもずっと語り継がれていく選手です。日本に来てくれてありがとう。一緒にプレーしてくれてありがとう。(言葉に詰まる)最後の最後まで私たちが知っているニック・ファジーカスでいてくれてありがとう。本当にお疲れさまでした。