「主婦の店さいち」創業者が死去 おはぎ愛され、遠方からも人絶えず
【宮城】温泉街の小さなスーパーに行列ができ、1日5千個、週末には7千個のおはぎが売れる。多くの人に愛されてきた「主婦の店さいち」(仙台市太白区)の創業者、佐藤啓二さんが5月22日、89歳で亡くなった。生涯、こだわりの味を貫いた。 【写真】ずっと鉛筆の手書きでつけていた現金出納帳。他人には任せなかった=2024年6月19日、宮城県仙台市太白区、石橋英昭撮影 「佐市」社長を2年前に継いだ長男・浩一郎さん(50)によると、4月に末期の胃がんとわかり、入院したのが5月8日。啓二さんはその少し前まで、毎日あんこが煮上がると味見をし、商品棚におはぎのパックを並べていた。他人に任せたことのなかった現金出納帳は、前日までつけ続けた。 秋保温泉で家業のよろず商店を継ぎ、1979年、スーパーに業態転換。しばらくして、近所の人に「孫に食べさせたい」と頼まれ、おはぎを作り始めた。妻澄子さん(2020年死去)が考え出した手作りの総菜類とともに「安くておいしい」と評判に。テレビで何度も紹介され、遠くからも買いにくる人が絶えなかった。 ■売れる理由を探ろうと 視察や研修500社以上 「ライバルは主婦の味」と話した。おはぎはあんこの甘さを抑え、煮物は具材ごとに別々の鍋で煮る。家庭料理の延長だから、添加物は使わない。 チラシは出さず、特売も原則やらない。業績が伸びても「自分の目が届かないとだめだ」と、1店舗経営にこだわった。おはぎは多い日には2万個が売れ、「うちにも置いて」と引き合いが相次いだが、販路を広げることには慎重だった。 300平方メートルほどの店で、年間6~7億円を売り上げる。うち6割がおはぎと総菜類だ。売れる理由を探ろうと、これまで大手スーパーなど500社以上が視察や研修に訪れたという。 「秋保おはぎ」は長く1個100円(税別)に据え置いた。啓二さんは値上げになかなか首を縦に振らなかった。ただ、砂糖や小豆の高騰もあり、現在は税込み175円だ。 「店一筋で、家族旅行の思い出もほとんどない。まじめな頑固オヤジでした」。浩一郎さんはそう振り返った。(石橋英昭)
朝日新聞社