トラフグに異変 「山口県といえばフグ」なのに県内漁獲が減少 急増するのは福島県、特産品としてアピール
山口県の冬の味覚を代表するトラフグ。その水揚げや流通にじわりと変化が起きている。同県内の漁獲が減少傾向にある中、東日本で取れる量が増え、福島県では新たな特産品として関係者がアピールしている。明治期に全国に先駆けてフグ食が解禁された山口県は危機感を強め、県産ブランドの強化や資源管理に力を入れる。 【写真】トラフグの養殖を支える下松市栽培漁業センター 全国唯一のフグ専門の卸売市場として知られる下関市の南風泊(はえどまり)仮設市場。18日未明、大型トレーラーの荷台の水槽からトラフグが次々と網で降ろされていた。この日入荷した天然物は全て千葉県いすみ市の大原漁港での水揚げ。「千葉や福島、宮城県産が出てきたのはここ10年」。運営する下関唐戸魚市場の松浦広忠営業部長は言う。 水産研究・教育機構廿日市庁舎(広島県廿日市市)によると、山口県のトラフグ漁獲量は2000年代初頭は年間60~90トン台だった。しかし、この5年は21年度の60トンを除いて40トン前後で推移し、23年度は46トン。特に減少が目立つ瀬戸内産は18年度以降は1桁台、21~23年度は各4トンにとどまる。 同機構水産資源研究所の平井慈恵主幹研究員は「水温の変化が要因の一つ」とみる。同県の日本海側のトラフグは春に関門海峡から産卵場のある瀬戸内海に入る。ただ、近年は海流の変化で海峡付近を温かい海水がふさぐ形になった。低水温を好むトラフグが産卵場にたどり着けなくなっている可能性があり、日本海側の個体も減り始めているという。 担い手不足も深刻だ。フグはえ縄漁の県内最大の拠点である県漁協越ケ浜支店(萩市)では全盛期の約40年前、50トン級の100隻以上が操業した。現在は20トン以下が約10隻。従事する組合員も千人から200人ほどに減った。山下隼人支店長は「近い将来、漁師がいなくなって『山口の天然トラフグ』がなくなるかもしれない」と打ち明ける。 一方で産地として定着しつつあるのが福島県だ。同県などによると漁獲量は16年度のわずか43キロから23年度は約29トンと急増。温暖化などによる水温変化で東日本の他海域から移動している可能性があるという。同県内にはトラフグ専門の漁業者はいなかったが、10年代後半に、はえ縄漁が導入された。 福島産の大半を水揚げする相馬市では22年から漁協や市観光協会などが「福とら」のブランド名でトラフグを地元や関東圏に流通させる。福島第1原発事故の影響から復興途上にある地元漁業の活性化への希望もフグに込める。相馬双葉漁協の小野雄治参事は「フグをきっかけに福島産は安全でおいしいと思ってもらいたい」と期待する。 12月上旬、山口県議会定例会。「将来にわたり『山口県といえばフグ』と認知されるよう積極的に取り組む」。大田淳夫農林水産部長は一般質問に答え、種苗放流や資源管理、消費拡大のための輸出促進に力を入れる考えを示した。 定例会閉会後のベトナム訪問で、村岡嗣政知事や県議団はファン・ミン・チン首相と面会し、有毒な部分を取り除いたフグの輸入解禁を要望した。「解禁できるよう関係省庁に検討させる」。チン首相はそう述べたという。
中国新聞社