絶滅寸前の「ラーメン屋台」…東京では残すところ1軒だけ、「今夜行きたい」厳選5店!
かつて、都内には300軒近くのラーメン屋台があったという。だが、減少の決定打となったのが、2015年の都条例の規制強化だ。東京23区内にあった最後のラーメン屋台は、2024年に閉業した。だが、それでも、客を引き寄せる名屋台は、各地に今も点在しているのだ! 【画像多数】珠玉の屋台ラーメンの数々…八王子・しゅんやっちゃんは無添加無化調でこの値段! 団地の一角にリヤカーを止めると、武石富士男さんがチャルメラを吹く前から、気配を察した客たちが往来に飛び出してきた。 「昔からのお客さんが、電話で注文してくれてるんや」 兵庫・尼崎の阪神軒は、阪急の塚口駅で軽トラ、武庫之荘駅でリヤカーが夜半に店を開く。それまでは、チャルメラを鳴らして付近を流す。 「だいたい10kmは歩くね。屋台の総重量は200kgぐらいある。これ引いとるから、運動なんか必要ないわ(笑)」 中学生の娘を連れた51歳の母親は笑顔を見せて語る。 「私の母も働いてて、お金置いて『ラーメン食べてな』という晩が何度もあったんです。もう何十年と食べてるけど、一口啜ると小ちゃいころの気持ちに戻れるんです」 この道20年以上の武石さんは「アマ(尼崎)で阪神軒を知らん奴はモグリや」と胸を張る。 最大6台あったという屋台は、今は経営者で軽トラ担当の林次郎さんと、武石さんの2人で守り続けている。 一方の首都圏。埼玉・東大宮駅のロータリーを抜けると、20時に灯りを点す北国の軽トラ屋台にはすでに20名ほどの行列ができている。半数は若者で、女性の姿も。 お目当ては、30年は値上げしていない500円のラーメン。澄んだスープに深い旨味が感じられる、店主の小沢秀信さんの良心が伝わる味だ。 「屋台を始めて11月で55年になります。当時のお客さんがいまだに見えるんですよ」 「おかえんなさい」と客を迎え、多くの客に慕われる小沢さんは今年で79歳。遅いときは朝の2時まで営業し、帰って少し休んだ後、7時半には次の仕込みを始める日々だ。 「最近は、体が言うことを聞かなくなってきましてね。6年ほど前から週3日営業にし、2人の息子とその娘らに手伝ってもらっています」 東京・高尾駅から数分のしゅんやっちゃんは、都内で唯一のラーメン屋台。店主の落合俊哉さんは、駅周辺で5店舗を切り盛りする経営者だ。 「コロナ禍で店が大打撃を受けるなか、屋台ラーメンは換気が重視されるなかで打ってつけだと思い、すぐリヤカーを探しました。屋台は、宮大工の父親が作ってくれました」 落合さんは、若いころから通い、理想の味だった八王子「香味屋」(現在は長野県伊那市で「火の見亭」として営業)の店主からレシピを教わり、そこに自身の工夫を重ねた。 「物価が高騰するなか、無添加無化調でこの値段(ラーメン750円)で出せるのは屋台だから。冬場はお客さんに寒い思いをさせちゃいますけどね」 透き通ったスープの旨味にコシのある麺、肉肉しいチャーシュー……なにより刻み玉ねぎのパンチが利いた、極上の八王子ラーメンが味わえる。 名古屋・大須観音裏手の駐車場脇で昼にも営業するのが、名古屋唯一の屋台の大須屋台ラーメンヤムヤムだ。 店主の稲垣一三さんは、もともと近くで点心を売りにする中華店を営んでいた。建物の老朽化で立ち退きを強いられ、2020年春に身軽な気持ちで屋台を始めた。 「もう77歳だし、誰かを雇ったりする気苦労は負いたくないからね。最初は、屋台を知ってもらうために近くを引いてまわりましたよ」 いまや行列店へと変貌した同店は、ラーメン一杯500円だ。どうして成り立つのか。 「屋台を出してるスペースは消火栓があって使い道がなく、顔馴染みの大家が無償で貸してくれたのが大きいですね。店前のネパール料理店も知り合いで、仕込みや洗い物をそこでさせてくれるんです」 ラーメンを作るときは厳しい職人の表情だが、周囲への感謝を漏らすときの稲垣さんは、穏やかさに満ちていた。 昭和30年代創業の大阪・泉佐野の大統領の本家は大阪市平野区にあり、今もリヤカーや軽トラの屋台が健在だ。そこから枝分かれしたのが泉佐野の大統領で、現在では屋台は店舗に収まり、創業者の息子で店主の伊藤秋彦さん・早苗さん夫妻と、秋彦さんの妹の恵さん、その息子の和磨さんで営む。恵さんが語る。 「なんでも父は母と2人で、行けるかぎり南に行こうと屋台を引き、よく売れたのがこの場所だったらしいです」 全盛期は200人以上の引き手がいた大統領。西は広島、東は岐阜あたりまで支部があったという。今でも泉佐野・岸和田・貝塚で3台が稼動中だ。 さっぱりしたラーメンは580円とお手ごろで、軽食にもってこいだ。そして、同店にはもう一つの名物がある。 「うちは当時からおでんも出しています。じゃがいもなどは家庭菜園で育てたのを使っていますから、全品80円とお安く提供できるんです」 関東煮の濃いめの味つけの、このおでんが絶品! 取材時にも大皿を持った近所の奥さんが「夕食のおかずに」と買い求めていた。 ■阪神軒(兵庫県尼崎市) 場所:武庫之荘駅、塚口駅近辺 営業時間:19時~25時 定休日:日曜 ラーメン(600円) ■北国(埼玉県さいたま市) 場所:さいたま市見沼区東大宮5-38-3 営業時間:19時30分(土曜は18時) ~売り切れまで 定休日:日~水曜 ラーメン(500円)+てんぷら(50円)+ゆでたまご(50円) ■しゅんやっちゃん (東京都八王子市) 場所:八王子市初沢町1277-8 営業時間:18時~23時 定休日:日、月曜、雨の日 チャーシューメン(950円)+味玉(100円) ■大須屋台ラーメンヤムヤム(愛知県名古屋市) 場所:名古屋市中区大須2-26-28 営業時間:12時~14時、17時30分~24時 定休日:不定休 チャーシュー麺(800円) ■大統領(大阪府泉佐野市) 場所:泉佐野市若宮町7-1 営業時間:12時~22時 定休日:日曜 ラーメン(580円)、おでん(1品80円) 写真・松澤雅彦、馬詰雅浩、鈴木隆祐 取材/文・鈴木隆祐
週刊FLASH 2024年11月12日・19日合併号