フェラーリの新しい“eビルディング”が、スーパーカーの歴史を大きく変えるワケとは?
フェラーリの新工場「“eビルディング”」は、なにがすごいのか!? 現地で取材した大谷達也がリポートする。フェラーリの電動化に、要注目だ! 【写真を見る】噂の“eビルディング”の内部はコレだ!!!(12枚)
3つの意味が込められた“e”
フェラーリがイタリア・マラネロで新工場“eビルディング”のお披露目を行った。しかも、6月21日におこなわれた落成式には、ジョン・エルカン会長、ピエロ・フェラーリ副会長、ベネデット・ヴィーニャCEOといった同社首脳陣だけでなく、セルジョ・マッタレッラ・イタリア大統領まで参列したのだからただ事ではない。 建設されたのは、マラネロ本社工場の敷地内。“e-ビルディング”と聴くと、「フェラーリもついに電気自動車(EV)専用の生産工場を作ったか?」と、思われるかもしれないが、その実態はいささか異なっている。 フェラーリが史上初のEVを間もなくリリースすることは、2022年のキャピタル・マーケット・デイ(株主向けの経営説明会のようなもの)で発表済み。そして、2025年末にリリースされるこのEVが、今回公開されたeビルディングで生産されることも、紛れもない事実である。 ただし、eビルディングで生産されるのはEVだけでなく、「SF90」のようなハイブリッドモデル、さらには純内燃エンジンを搭載した「プロサングエ」も生産される計画という。 発表会で挨拶したヴィーニョCEOは「eビルディングのeには3つの意味があります」と。述べた。「エネルギー(Energy)、進化(Evolution)、環境(Environment)の3つを象徴していることからeビルディングと名付けました。決して電気(Electric)ではありません」 ここから読み解けるのは、このeビルディングをひとつのきっかけとして、エネルギー問題や環境問題に対する取り組みをより強化し、フェラーリがさらなる進化を目指しているという点だ。 したがって、このeビルディング自体も環境問題やエネルギー問題に配慮した作りとなっていることは当然だろう。 eビルディングをデザインしたのは、“サステイナブル建設の第一人者”とされるマリオ・クチネッラ。2025大阪・関西万博におけるイタリア館の設計と建設を担当することで注目を集めたクネッチラは、イタリアを代表する建築家のひとり。そのeビルディングは、窓の面積を極力大きくすることで多くの自然光を室内に導き、働きやすい作業環境と照明に用いる電力を最小限に抑えるよう工夫されている。 また、屋上に設置された3000枚以上のソーラーパネルは1.3MWもの電力を発電。もっとも、これだけではeビルディングで使用する電力をまかないきれないので、不足分はグリーン電力で補う。結果として、これまで自家発電に使っていたガスを購入する必要は一切なくなったという。さらには、バッテリーやモーターの試験で使用するエネルギーはその60%以上が回生され、工場内で活用される。 環境保護の姿勢は水資源にも貫かれる。eビルディングに降り注いだ雨水はすべて1カ所に集められ、適切に処理されたうえで、繰り返し使われるそうだ。 新たに作られた生産施設は、作業負担を軽減するさまざまな省力機械が用いられているものの、メカニックの手作業でさまざまな部品が組み付けられる点は従来とまったく変わらない。いっぽうで、作業スペースはこれまで以上に拡がって労働環境が改善されたほか、自動搬送機の活用などにより、柔軟な生産体制を構築したことが最大の特徴という。 「こうした柔軟性はエンジニアやデザイナーにさらなる自由度を与えるとともに、これまで以上に柔軟で充実したパーソナライゼーションを実現することに役立ちます」 記者陣との質疑応答で、ヴィーニャCEOはそう答えた。 eビルディングでは間もなく大量生産に向けた準備が始まり、2025年第1四半期には最初の製品が完成する見通し。いっぽう、前述したEVは2025年末に発表され、2026年中にはラインオフする模様だ。 ここで登場するフェラーリ初のEVは、フェラーリならではの操る喜びをドライバーにもたらすとともに、“サウンド”にもなんらかの工夫が施される見通し。ちなみに、6月に来日したフェラーリ・グローバル・プロダクト・マーケティングのエマヌエーレ・カランドは「フェラーリはニセモノを使ったりしません」と、言明したほか、今回ヴィーニャCEOは「電気モーターは決して無音ではありません」と、語っていたので、モーターが発する音を加工してドライバーに聞かせるシステムとなる可能性もあるだろう。
文・大谷達也 編集・稲垣邦康(GQ)